カーテンを透かす青白い朝の光に目を覚ます。掛け布団はかろうじて端だけが身体を覆っていた。引き寄せようとすればクイと逆側からわずかな抵抗を感じて、仕方なく肌寒さに耐えることを選ぶ。首だけを巡らせてベッドの壁側を見れば、こちらはしっかりと布団を被った男のあどけない寝顔が間近に飛び込んできた。布団を取られた恨めしい気持ちよりも間抜けな寝姿への胸騒ぎが勝るなんて、いよいよ重症だとこっそり嘆息する。
いつのまにか、俺はコイツに恋をしているらしい。
この横暴で喧しくてやることなすこと滅茶苦茶な男のどこにだとかなんでだとか、自分でもわからない。自覚したからといってコイツに優しくしようなんて思わないし、口を開けばケンカするし。以前より多少は歩み寄るようになったかもしれないが、表向きにはなにも変わっていないはずだ。この想いを伝える気はない、気づいて欲しいわけでもなかった。
ただ、恋心というのはどうにも取り扱いが難しくて。
コイツがその日の寝床に円城寺さん家ではなく俺の家を選べば内心で喜んでしまうようになった。面倒くさがっているふりをしていつまでも客用布団を用意しないのは、狭いベッドでコイツと寄り添って眠るのを楽しみにしているからだ。
今だって、眠るコイツの無防備な唇に目が吸い寄せられてしまっている。
起きている時は身長差でわずかに見上げる顔は、寝ている今なら同じ高さだ。血色の良い唇はふっくらして見えて、やわらかそうだ、なんて考えてしまうと心臓がドクドクと暴れ出す。全身の体温が、特に顔が熱くなって、もう布団からはみ出た肩の寒さなんて忘れてしまうほど。じっと見つめていても伏せられた瞼が開くことはなく、今ならキスもできるんじゃないかと勝手な想像を抱く。
「なぁ。……起きないのか」
オマエが起きないと、止まれなくなってしまう。
目覚ましには小さすぎる声量の通告は、コイツの眠りを覚ますには足りなかった。
ごくりと息を飲んで、ほんの少し顔を傾ける。目を閉じると自分の鼓動のうるささに呆れそうになる。ゆっくり近寄って、唇が触れる…すんでのところで誘惑を振り切って顔を離した。
やっぱり、こんな、不意打ちみたいなのはよくないだろ。俺の気持ちをきちんと伝えてもいないのに。
「遅え。トロいんだよ、チビ」
ぐい、とスウェットの襟ぐりを掴まれて引き寄せられた。同時に、唇に当たるやわらかな感触。
まばたきも忘れて固まっているうちに、そっと口は離されて、ぱっちり開いた金色の瞳と目が合った。
「………」
「………」
「……ぐぅ」
「おい。いまさら寝たふりはムリだろ」
無言で見つめあった後、ばさりと布団を被り直したコイツを揺すって引っ張り出す。あんな大胆なことをしておいて照れ隠しするなんて、本当にへんなやつ。改めて対面した顔は耳まで真っ赤だったが、多分俺も人のことは言えない。
「オマエ、どうして…」
「さ、先にしようとしてたのはチビだろーが! なのにぐずぐずしてっから、オレ様は…!」
「知ってたのか。俺の気持ち」
「……気づかないわけねぇだろ、あんなバレバレの……」
バレバレだったのか…。自分の演技力にちょっと自信を失いかけたが、コイツは俺からの好意を知っていて、それでもなお拒まなかった、ということは。
俺はコイツの手首を掴んだ。もう、布団を被ってごまかしたりできないように。
「ちゃんと、伝えさせてくれ」
そうしたら今度こそ、不意打ちじゃないキスをしよう。
俺の言葉にコイツはさらに顔を赤くして「生意気言ってんじゃねー!」と蹴りつけてきた。