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    512ryokoDC

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    11/10イイシュウレイの日に向けて
    組壊後/赤安♀︎両片想い(前半)
    ハンドケアのお話

    #赤安
    #女体化
    feminization

    可愛くなりたいと思ったのは今までの人生で初めてだった。容姿については昔からさんざ言われてきたので整っている自負はある。だがしかしそれでも、彼のまわりと比べたら、自分はなんと貧相で華のない人間なのだろうと卑下してしまうのだ。メイクもヘアスタイルもファッションもカラフルな米国女性陣は、自分の魅せ方がうまい。それが彼女たちの自信や原動力の源なのだと、現在の合同捜査でなんとなくわかっていた。でもだからといって地味な僕に自信や原動力がないわけではない。むしろ溢れんばかりだ。着飾らないと湧き出てこないようなタイプではないし、その前に着飾るものを持っていないし…バーボンの場合は別だけど。今は降谷零の話だ。薄いオフィスメイクとおなじみグレーのセットアップスーツで米国勢の部屋へ諸用に行けば、自分はかなり浮いている。言い方を変えれば、とても目立つ。

    「降谷くん!」
    「た、頼まれていた資料、です…」

    おずおずと萎縮していたら目的の相手にすぐに見つけられた。ぱっと明るく笑う笑顔に、今の今まで険しい顔で同僚と話していた人物とは思えない。自分がギャップに弱いことを知ったのは、彼に恋してからだ。

    「ありがとう、ちょうど行き詰まっていたところだったんだ。助かるよ。」
    「いえ、お役に立ててよかったです。」

    資料を渡したその手をなかなか離してくれない。それどころか僕の掌や指先を甘く撫でている。…正直、今そこはもっとも触れてほしくない場所だ。彼に…赤井に触れられるのは嬉しいけれど、遅咲きの女心がそれを拒む。なるべく気付かれないよう、そうっと手を離した。

    「じゃあこれで失礼しますね。」
    「待ってくれ、このあとランチでも一緒にどうかな?」
    「ごめんなさい、せっかくですけど…」

    溢れんばかりの自信や原動力は仕事に関してだ。僕がほしいのは、恋愛のそれ。だからこそ、可愛くなりたいと思ったのだ。可愛くなったら、もっと着飾ったら、赤井の隣でちゃんと笑える気がする。恋に臆病になりたくない。

    ───

    データ社会になっても書面でのやり取りは衰えていない。日に何枚も紙を触っている弊害を、この季節は特に喰らう。

    (かさつく…)

    指先の乾燥が引き起こす、ささくれや爪の割れ。手には年齢が出ると言うのなら、いったいこの手は何歳になるのだろう。ネイルでもしようかと考えたこともあった。だが日本のお硬い社会、上司の目が痛いし所詮は女かと舐められる一因にもなりかねん。それはメイクにも言えることで、せいぜいベースメイクにパウダーを乗せて眉と薄いリップ程度。いくら仕事とは言えもう少し色があっても良いのではないかと考えれば考えるほど、良い案が出ずに泥沼だ。せめてバッグの中は、と好きなブランドで固めている。薄桃色のチューブの先にあるカットガラスのような透明な蓋をくるくる回して、かさついた指先に少し乗せたハンドクリーム。体温で温めてマッサージするように塗り込めば、香り立つローズに安らいだ。

    「降谷さん、お時間です。」
    「今行く。」

    合同捜査開始から週一で行っている定例会議。情報共有は日頃から行っているけれど、各国が一度にまとまり全員で協議する機会は貴重だ。その大事な場に色気づいて甘い香りなど…と思ったが、このくらいは…と妥協したくもあって。だって、赤井もいるから。きっと同僚の香水などで香りには慣れているだろうけれど、僕の香りに気付いてくれたら。それで、いいな、って笑ってくれたら。

    「珍しいな。」
    「え?」
    「君がそんな香りをさせているなんて。」

    討伐作戦のリーダーだった僕達は自然と隣席に配置されている。会議が始まる前に資料に目を通していたら、赤井がややぶっきらぼうな声で言った。僕のほうを見ずに。

    「ハンドクリームなんですけど…苦手な香りでした?」
    「あの林檎を思い出す。君には似合わんよ。」

    トーンが落ちた声音だった。彼の小さな溜息を聞いた途端、資料を見たままの視界がそこで静止した。この文字なんて書いてあるのだろう。英語?日本語?まるで暗号だ、読めない。読めないなら急いで解読しなくては。でもわからない、理解できない。降谷さん、と風見に名前を呼ばれるまで頭と耳がすべてを遮断していた。どうやらぼうっと無反応でいたらしい。ああ…僕は否定されたのか。

    「すまん風見、少し外す。」
    「わかりました。」

    このまま会議室にいてもただの地蔵だ、内容はあとで聞こう。自業自得、色気を出したのが馬鹿だった。駆け込んだレストルームで入念に手を洗った。何度も洗ったのに悲しいかなローズの香りは僅かに残っている。気に入りのブランドが、一気に悲しいものに変わってしまった。

    ────

    それから僕のバッグの中は一変した。薄桃色のブランドものはすべて処分、シンプルなモノクロにまとめた。ハンドクリームはもちろん無香料。いいじゃないか、僕はゼロなんだから。無彩色と無香料。いちばん似合う。有であってはだめなんだ。

    「っ、」

    自販機前にて小休憩中。缶コーヒーのプルタブに指をかけたとき、ぴりっと痛みが走る。見れば先日の指の乾燥が悪化してあかぎれになってしまった。指先からじわじわ滲み出る血に動じることなく、荒れた手を見る。ふと、昔の映画を思い出した。働き者の良い手をしていると、家臣の草臥れた手に一国の姫が向けた言葉だ。僕も、この手を褒めてあげよう。ずっと頑張ってくれた誇りの手だ。ティッシュで血を拭って止血して、無香料のハンドクリームをいつもより多めに出して両掌であたためる。とろりと溶けたらケアの合図。爪のまわり、指の腹、節や皺のすみずみまで丁寧に。全体をマッサージしたら祈るように指を絡めてきゅっと握り込んだ。

    (この手荒れが治ったら、赤井に告白しよう。)

    香りなんていらない。カラフルな色もいらない。でもこの手だけは、赤井に見てもらいたい。頑張ってきた手を、赤井に堂々と差し出せるようになったら、好きって言うんだ。
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