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    これは二年くらい前に書いたオタクのはてブロ芸

    天使の偏在日記アイドルのA面B面

    私にとってアイドルは恋愛対象ってよりは崇拝対象の方が近くて、部屋に置いてある近くも照らせないようなライトを見せられてキャーキャー言う気持ちがよくわからなかったけど、最近になってその気持ちがほんのちょっとだけわかってきた。もしも今、天くんがバラエティに出て右も左も示せないようなインテリアの地球儀を見せてくれたら、私はアンコールで三人が出てきた時みたいに大きな声を上げて喜ぶと思う。私は、それから私の好きな天くんは、アイドルファンとして、それからアイドルとしてひとつの曲を終えたのだ。


    もう正直聞き飽きてると思うけど、私が天くんを好きになったのはほとんど一目惚れみたいなものだった。

    デビューしたばかりの年下の男の子が、天使の子どもが、羽を大きく広げて五万人の前で飛び立つまでの姿を私は見てきた。私は天くんの、はじめから完成されたパフォーマンスが好きだった。天くんは天を駆けるだけじゃなく陸で踊るのも上手で、本当に天使様なんじゃないか、と思わせてくれる実力がある。他のアイドルと違って天くんは舞台の向こう側をあんまり見せることはない。だから私は、私たちは、彼の両親が本当に神様で、家は空の上にあって、疲れた人間を癒すために踊っているんだ、という夢を見ることができた。それは液晶越しじゃなく、二階席で見ても、一階席で見ても、アリーナ席で見ても変わらない。天くんはいついかなる時も私たちの天使だったし偶像だった。


    でも最近、変わったな、と思うことがある。
    天くんは前よりもずっと、羽の内側を見せてくれるようになった。櫛で丁寧に整えられたそれじゃなく、自然のままに伸びた等身大の純白を、天くんは私たちにそっと見せてくれるようになった。


    ・「眠れない夜に、はちみつ入りのホットミルクを作ってくれてありがとう」

    これは雑誌「テレビジャン」で天くんが言っていた、楽さんへの感謝の言葉。天くんのメンバーカラーであるピンク色をしたゴシック体で、風船の中に詰め込まれていたそれを見て、私はちょっとした違和感と希望と未視感を感じた。見たことのない文字だ、と思った。
    天くんは私たちに渡す情報の検閲所をそれはそれは厳重にしている。九条天のイメージを損なわないのはもちろんのこと、私たちを飽きさせないために、色んな点を小出しに提供している、と思う。天くんから提供された点はやがて繋がって線になり、もっと重要な情報として私たちの中にインプットされる。それが今までの天くんのやり方だった、と、思う。
    でもこれは、今までのそれとはちょっと違った。
    この文章は、この三十一文字がすべてなのだ。とある夜に、楽さんがはちみつ入りのホットミルクを作ってくれた。これがすべてだ。それだけなのだ。(もっと言うと、注釈の※TRIGGERは現在同居中を含めた四十四文字)
    例えば百さんと猫カフェに行った話は、「この前猫と触れる機会があったので」「猫カフェに行って」「百さんとお会いしたんですが」「百さんと猫カフェに行って」と四段階に分けて話してくれた。陸くんとケーキを食べに行った話は「同じセンターとして七瀬さんとお話してみたい」と前段階から匂わせてくれていた。
    でも天くんは、今回『楽さんにホットミルクを作ってもらった』話を前振りも伏線もなしに、なんでもないことのように出してくれた。これはファンである私の想像でしかないけど、天くんにとってこの話は、本当になんでもない日常にありふれた話。だから段階を踏まずに、そのまま全部出してきた。

    そう、これがそもそも今までと違う。

    天くんはなんでもない話をしない。天くんの思うアイドル像に沿った、理想のアイドルを形成する材料になる話しかしない。百さんや陸くんの話もそうだ。小出しにすることで私たちに想像の余地を与えるだけでなく、『先輩や後輩とプライベートでも仲が良い』を主張することで、暗に天くんのコミュニケーション能力が裏付けられている。
    天くんが見せてくれるものはいつもそうだった。雑誌でもテレビでもコンサートでも握手会でも、天くんがアイドルを崩す瞬間は一瞬だってなかった。天くんが発信する全部に配慮が行き届いていた。どれだけ小さな媒体だろうと気を抜くことはなかった。だから私は、たった三十一文字だったけど、天くんがなんでもない話をしてくれたことが嬉しかった。私は天くんがプロのアイドルを全うするところを見てきた。けど、それと同じくらい、天くんが十代の少年として泣いたり笑ったりするところも見てきたのだ。

    私は今まで、天使を応援してきたつもりだった。でも今回の天くんの等身大に触れて、そうじゃないって気付けた。私はちゃんと人間の少年にペンライトを振っていたのだ。

    それに、いままでの天くんは、眠れない夜があることなんて教えてくれなかった。私はアイドル九条天をずっと見てきたけど、天くんをとりまく環境が十全じゃないことも、人に頼らないと眠れない夜があることも知らなかったよ。


    ・「一緒にいてくれてありがとう」

    つい先日、私はTRIGGERのライブに行ってきた。ドームやアリーナに比べるとずっと狭くて息苦しいライブハウスだ。本人確認もなかったし持ち物検査もなかった。チケットの半券さえちぎってもらえば三人に会うことができる。私たちへの信頼と期待で成り立っているライブだった。

    ライブは端的に言って最高だった。私が好きなTRIGGERはなに一つとして変わってなかった。TRIGGERは信じた姿のまま数メートル先で歌って踊って笑っていた。だから私もあの時のように声を出して、ペンライトやうちわを振って応援することができた。『舞台おめでとう』って声をかけることができた。三人が変わらずにあの日のまま待ってくれてるのに、私が変わるのは違うと思った。
    私は息をしていたかも覚えてないくらい、目の前で踊る三人に夢中になった。ライブハウスでは広い会場ではとても見えなかったしなやかな爪先まで見える。すべてを記憶したかった。いまのうちに見ておきたかった。だって彼らがここで留まっているはずがない。留まっていいわけがない。ふとした瞬間、太陽を見た後みたいに目が眩んで動けなくなることがあった。ライブハウスは彼らが輝くには狭すぎるのだ。

    二時間で三人の全部を見た。表情がパフォーマンスが指先が踊ることの楽しさと喜びを伝えてくれる。あっという間の二時間。二時間たっぷり楽しませてくれた後、ガラスの欠片みたいに煌めいた汗を流しながら、TRIGGERは私たちの前で背筋を伸ばしてピンと立っていた。

    そして天くんが、龍さんと楽さんの手をぎゅっと握りながら「一緒にいてくれてありがとう」と言った。見たことのない穏やかで年相応な微笑みで天くんはそう言った。天くんは笑ってた。楽さんと龍さんは、ちょっと泣きそうだった。

    いままでもお礼を言われたことはある。というか、天くんはどの会場でも私たちへの感謝は忘れなかった。好きだよ、愛してるよ。それらの言葉とおなじくらい、天くんは私たちにありがとうって言ってくれる。私は天くんのありがとうが好きだった。天くんと感謝の相互関係が築けるのが好きだった。
    天くんにとって、いままでの「ありがとう」とこの前の「ありがとう」に大差はないと思う。天くんはいつだって最上級の感謝を私たちに向けてくれている。そこに大きいも小さいもない。天くんの感謝は会場に比例することはない。どこであろうと自分が持てる最大限の感情で、私たちにお礼を言ってくれてる。
    違うのは天くんの気持ちじゃない。天くんのいる環境だ。天くんがお礼を言う時、楽さんと龍さんと手を繋ぐことなんてなかった。隣にいるのに拳一個分くらいの距離があった。触れることなく、ただじっとペンライトの海だけ見つめてお礼を言うのが天くんの常だった。両隣にいる楽さんと龍さんを見ることなく、私たちにだけ「ありがとう」と言っていた。それがいつもの天くんだ。冷たいとかじゃない。メンバーに感謝してないわけじゃない。それが天くんとふたりの距離感だった。年の離れた天くんは、それでも年下扱いされるのを嫌う。メンバーとは対等でいたがっていた。こういう言葉を使うのはあんまり良くないかもしれないけど、天くんはふたりに追いつくために背伸びをしていた。五年の歳月を埋めるのは難しい。五年間の経験は同じように五年分の時間が必要だ。私は密かに、無理しなくていいのにな、と思ってた。でもきっと、天くんに無理をしている自覚はない。飛び級で学業をこなしていた天くんは、それしか方法を知らないんだと思う。努力すれば歳上に追いつける成功例を知っているから、天くんはメンバーの二人に対しても同じことをしている。否、同じことをしていた。

    龍さんと楽さんと手を繋いで「ありがとう」って言っていた天くんは、背伸びをしているようには見えなかった。あそこにいたのは紛うことなき十九歳の少年。天くんは背伸びをしなくても対等でいれることに気付いたんだと思う。それはきっと楽さんと龍さんのおかげだし、IDOLiSH7のおかげだろう。天くんと同い年の陸くんは等身大のままグループに溶け込んでいる。天くんよりも年下の一織くんや環くんもちゃんとグループの中で尊重されている。私もようやくその姿を見て気付いた。そうだよね、それでいいんだよね。

    私は今までのTRIGGERが一番正しい形だって思ってた。メンバーとそれなりに距離があって、でも実力は認めあっている。それが一番だって思ってた。

    けどそうじゃない。天くんの「一緒にいてくれてありがとう」を見て、それを聞いて泣きそうな二人を見て、三人に合ってるのはこっちなんだなってわかった。気付くのに随分と時間がかかってしまったし、色んなことがあったけど、もうこれでTRIGGERは大丈夫だよね。だって三人は最強で最高で認めあってて、それからメンバーのことが大好きだから。


    ・蒼い鳥/東京炎上

    私の好きなバンドの曲に、「蒼い鳥」という曲がある。川の底に沈殿した泥のようにゆったりと淀んだメロディーの曲だ。名前に反して悪夢のような曲で、一度聞いたら脳にべったらとこびりついて離れなくなる。シングルとしてリリースされたこの曲のB面が「東京炎上」。こっちは蒼い鳥と違って、駆け抜けるようなすばしっこいメロディとキャッチーな歌詞が印象的な曲だ。まったくもって方向性が違うこの二つの曲には共通していることがある。どちらも攻撃的なのだ。

    私が思うに、いまのTRIGGERはB面なのだ。いまのTRIGGERは「東京炎上」なのだ。

    TRIGGERの根幹はずっと変わらない。三人のキャラクターも意識も変わることはない。大切な部分は一切変わることなく、そのまま次の曲へと移っている。TRIGGERのA面は終わった。次はB面だ。一人で凛と立っていた天くんが、楽さんと龍さんに寄りかかるようになった。美しく梳かれた翼で空を飛んでいた天くんが地上に降りて私たちに羽の裏側を見せてくれるようになった。

    私は「蒼い鳥」を聞いて好きになった。だから対価を払ってシングルを買って、B面に入ってる「東京炎上」を聞いてもっと好きになる。TRIGGERは今B面だ。買った人しか聞けない、いわゆるマイナー曲。すっっごい素敵なのに、好きな人以外は買ってないから聞かれることの無い幻の名曲だ。

    それでも私は信じてる。いつかTRIGGERがまたテレビに出るようになって、新しいシングルを発表するのを。そしてこのB面が発掘されるのを。『隠された名曲!』と話題になるのを。私は信じてる。TRIGGERが私たちを信じてくれたみたいに、私もずっとTRIGGERを信じてるよ。
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