ぬいぐるみブルーロックという場所は世界一のストライカーを産み出すための施設だったはず、なのだが。世の中やはりお金が無いと何事も立ち行かないようで、U20を終え、BLLTVとしてメディア展開も以前よりも勢いをましていた。
特にU20でもゴールを決めた潔、凪、凛などはメディア展開も多くサッカー選手とは? というようなコスプレだったり着ぐるみをきて撮影をしたりと様々だった。
そんな中で絵心に呼び出された潔は、また変なものじゃないといいなぁ、と思いながら話を聞いていた。
「今回はお前らのぬいぐるみを出すそうだ」
「はぁ……」
はぁ、としか答えようがない。メディアには疎いのだ。絵心から渡された箱の中には凪や潔を象ったぬいぐるみと、各々のカラーリングに足元に日付がついたテディベアが入っている。
「とりあえず、潔世一、お前はそれを対象者に配るように。あとは適当に配信のとこに乗るようによろしく」
それだけ言われると、じゃあね、と部屋から出されぽかんとしたまま、変なところに適応力のある潔はそのまま箱を持って各々の所に持っていったのだった。
ブルーのクマは凛、黄色は蜂楽、ピンクは千切、紫は玲王……と順に彼らと同じ小さいぬいぐるみも共に渡して、最後は凪の元へ向かう。
2人のぬいぐるみをかかえて部屋に向かえば、ベッドの上でスマホを弄っている凪を見つけた。
「凪、今回はぬいぐるみだってさ」
ごそごそと箱から黒いテディベアと、凪を象ったぬいぐるみを取り出せば面倒くさそうに視線をやりながらも、こう言ったことは過去にもあったので、ん、と腕を伸ばして潔からふたつのぬいぐるみを受け取る。
「なんだっけ、推し活? かなんかにつかうんだっけ、こういうの。芸能人とかじゃないんだけどな」
ベッドに腰掛けて潔が呟けば、凪はむくりと身体を起こして、潔の手の中にある緑のテディベアと潔のぬいぐるみを見やった。
「推し活なんて、潔く知ってるね」
「あぁ、氷織がネットみて教えてくれたんだよな。U20以降なんだかんだ色んなグッズ出てきたから、それをカバンとかにつけてるんだって」
不思議だよなぁ、なんてつぶやく潔の隣で凪は自身のものと色違いのテディベアと、潔をかたどったぬいぐるみをじっと見つめている。
「どうかしたのか?」
「んー、」
凪は初めこそうーんとやる気のない声を上げていたものの、うん、と自分で納得したのか潔の手にある緑のテディベアを指さした。
「潔、それ俺のと交換しよ」
きょとりと潔の青色の瞳がだるくなる。
「なんで?」
心底不思議そうな顔に凪は、ずいっと自分の黒いテディベアを押し付けて「推し活なんでしょ。潔のクマが欲しい」となんて事ないようにつぶやく。
「推し活……? 俺のクマ?」
宇宙を背負っている潔の手から緑のテディベアを抜き取り代わりに自身の黒いテディベアを握らせる。
「流石にこっちはバレるから交換できないけど、クマなら多分へーきだろうし」
凪なりに潔は自分のモノだとアピールしているのだが、潔はよくわかっていないのか「推し活でなんで交換?」と首を傾げていた。
「んぇー、めんどくさい」
鈍感め、と小さく呟いて、自身をかたどったぬいぐるみをちょいっと持ち上げ、そのまま潔の手の中のぬいぐるみにちゅっとキスをさせるようにくっつければ、その行動に不思議そうにしていた潔の顔が赤くなる。
「な、凪」
「潔は俺ので、俺は潔のって、一応外にはライバルって言ってるし、仲良しくらいでみてくれるでしょ」
本当はこっちにしてるのを見せつけてもいいんだけど、とぬいぐるみを潔自身の唇に寄せると更に赤くなった潔はようやく意図が掴めたようだった。
「絵心さんから配信にのせてって言われてんのに」
「いいじゃん、ライバル同士と推しは両立するでしょ」
ふ、と唇がゆるく弧を描く。
「怒られたら、連帯責任だからな」
「面倒臭いけど、いいよ」
ふは、っと笑った潔の唇に今度は凪自身の唇を寄せて、ちゅっとキスを落とした。
後日、練習の際にベンチに黒いテディベアと潔の小さなぬいぐるみが並んでいるのが配信され、SNS上で軽く話題になったのは言うまでもない。