無題「ウーノ。俺、頑張ったと思わない?」
地面から突き出た石や岩が目立つ荒野。山となった魔物の死体の側で、シエテは石に腰掛け、地面に突き立てた剣に寄りかかるようにしながら問いかけた。
「この位で弱音を吐くとは、珍しいね」
それに答えたのは、中空に浮かんだウーノだ。己の身長より長い槍を片手に、首を傾げてシエテを見る。
二人はこの先にある町に忍び寄る魔物の大群の討伐を依頼されてここに居た。彼らにとって、ここの魔物達は数が多いだけでたいした敵でもない筈だ。
「うーん。まあそうなんだけど。ここ数日ずっとこんな感じじゃない? そろそろゆっくりしたいなーって」
シエテの言うとおり、確かにここのところ毎日がこんな調子だ。休息が欲しくなる頃合いなのかもしれないと、ウーノは思う。
「なら、明日の依頼は私が一人で請け負おう」
「ええ……。それなら意味がないから、俺も行くよ」
その言葉に、歯切れも悪く応えたシエテは、背筋を伸ばして伸びをした。そんな彼に、ウーノが怪訝そうな顔をする。
「何が言いたいんだい、シエテ」
「……真剣に聞いてくれる?」
「勿論だ」
「ウーノと二人でいちゃいちゃする時間が足りない」
ウーノの瞳を見つめて、シエテが真剣な声を出した。その居住まいも、表情も、真面目そのものなのに、発言内容がなんとも子どもっぽい。
「…………シエテ」
「ウーノ、その目は傷つく。俺は真剣なのに……」
がっくりと肩を落とすシエテを、ウーノはなんとも言えない表情で見た。
「きみは、時々幼子のような我儘を言うね」
「うっ……ハイ」
「顔を上げなさい。シエテ」
ウーノがそう言ってシエテの頭を片手で叩く。促されて顔を上げると、すぐ近くに彼の顔があった。小さな手が頬に添えられて、そのまま唇同士が触れあい、すぐに離れた。人気がないとは言え、野外でのウーノからのキスに、シエテは驚きに目を見開く。
「……! ウーノ!」
「なんだい」
「もう一回、お願いします」
両手を合わせて頼み込めば、彼は優しい目でふっと小さく息を吐く。
ウーノがシエテの顔にそっと両手を添え、再び互いの唇が重なった。シエテは柔らかな髭と、その下の唇の感触に頬を緩める。しばらくして、ゆっくりと彼が唇を離した。
「ご満足かな?」
「勿論だよ~!」
ウーノの問いかけに、にやけ顔で即答すれば、彼は微笑んだ。
「では、戦利品を回収してグランサイファーに戻ろうか」
「了解~」
そうして二人は、仲睦まじくその場を後にしたのだった。