何もしらないあなた「今までの、同室の関係ではおさまれない程、お前が好きなんだ……」
初めて留三郎に口付けられて、気持ちを抑えられなかった。僕だけが彼を好きだと思っていて、墓まで持っていくつもりだったのに…。
なんて自分は意思が弱いのだろう。
抱きしめられていたのに解放され、肩を掴まれる。見つめられて、視線を返すと見慣れた顔…のはずなのに。
出会ってから随分と大人びたけれど、太くて釣り上がった凛々しい眉も、切れ長の鋭い三白眼も、高い鼻筋も、大きな口もずっと変わらない。
「わ、悪い!」
留三郎は、泣きそうだった。僕は泣いていたかもしれない。少し怯えて、心細そうな……五年間共に過ごして知らない表情。もはや知らない人にさえ見えてしまう。
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