人数合わせのために合コンに来て欲しい、と友に誘われた三郎は、俺には雷蔵がいるからときっぱりと断った。
しかしこの恋人一筋の男を見て、その恋人はあっけらかんとこう言い放つ。
「困ってるんだろ?行ってあげなよ」
優しい雷蔵らしいといえばらしいのだが、少しは心配になったりしないのだろうかと三郎は落ち込む。俺のことどうでもいいのか、いや、むしろ信頼してるからこそ?
それに雷蔵に心配をかけたくないという思いとともに、自分だって興味のない女と飲むより雷蔵と一緒にいたかった。
でも雷蔵にこう言われてはと、少し拗ねて三郎は合コンへ向かったのだった。
ーーーのはずだったのに。
家に帰ってくると、やけに酒臭い。雷蔵、1人で飲んだのか?それか、一升瓶でも倒してこぼしたか。
不審に思いながら部屋に入ると、雷蔵が暗い部屋の中ですんすんと泣いているではないか。
「雷蔵!?どうした、何かあったのか!?」
慌てて電気をつけて雷蔵に駆け寄ると、雷蔵は三郎の顔を見てギュッと強く抱きしめた。
少し赤みを帯びた頬を一滴の涙が滴り落ちる。雷蔵はしばらくして顔を上げると、潤んだ瞳で三郎を見つめた。
周りには酒の缶がいくつか転がっている。
「1人で飲むなんて珍しいな。一体どうしたんだ」
「…僕のこと、」
雷蔵は絞り出すような声で言葉を紡いだ。
「嫌いにならないで…僕より好きな人を作らないでくれ……」
喋るたび涙も鼻水もズルズル出てくる。え、どういうことだ?合コンの話?
「雷蔵より好きな人なんて出来るわけないだろ。どうしたんだ急に」
「だって、合コンって、女の子がいっぱいくるから…」
「雷蔵が行けって言ったんじゃないか」
「だって三郎には僕がいるから、他の子に取られたりしないと思って。でも、恋人がいる人でも合コンで意気投合して浮気しちゃうとか、結構あるんだって、ネットに書いてあって、なんか不安になってきて…」
三郎はブハッと吹き出した。なんだそりゃあ。
「世の中には浮気する男もいるだろうが、俺は浮気なんか絶対しないよ」
「うん、よかった」
「俺が浮気しないおまじない、教えてやろうか」
「そんなのあるの?」
「好きって100回言うだけ」
雷蔵は少し考えて、三郎にもう一度ギュッと抱きついた。そして、小さな声でおまじないを唱え始めた。
「好き、すき、すき、すき、すき…」
「俺も好き」
「すき、」
「俺も大好き」
「…この掛け合い、100回するの?」
「面倒だったら、キス一回で好き50回分にしてあげてもいいけど」
「えーっと、そうなると、今6回言ったから、あと94回をキスに換算すると…2回には満たなくて…?」
「いや、真面目か!」
ツボに入ったのか、三郎は涙が出るほど笑い転げた。雷蔵はギャグのつもりで言ったわけではなかったが、三郎が楽しそうなのを見て不安は無くなったようだった。
「過剰になるが2回でいいだろ」
「おまじないの効果、薄れない?」
「多ければ多いほど効くさ」
どちらのものともわからない酒の匂いに包まれて、2人はお互いの舌を絡める。息をする暇もなく長く口内を貪られながら、これは一回としてカウントなのだろうか、と雷蔵は悩んだ。