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    ryokuchu_seki

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    ryokuchu_seki

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    歳の差れかおだったけどあんまり差になってないし矛盾に気づいたのでボツ さようなら

     四年。四年もあれば、大抵のことはできる。子供は成長するし、大人も歳を重ねる。年月は無慈悲なほどに平等にすぎる。齢ニ歳にして、羽風薫が学んだことであった。
     この間までひまわり組にいた大好きなお兄ちゃん、といっても血が繋がっているわけではなく、単純に自分に良くしてくれているというだけだが、そんなお兄ちゃんはずっとひまわり組にいるわけじゃないらしい。薫は今年幼稚園に入ったばかりであるから知らなかったのだが、薫がひまわり組になる頃には、お兄ちゃんは小学校というところへ行ってしまうそうな。それを知った時、薫は先生が困り果てる程に大泣きした。
    「やぁ、やだあ、れーくん、しょがっこ、行かない!薫とひまわり組するの!」
     担任の先生だけでは泣き止ませることができず、とうとう園長先生まで出てくる始末。それでも薫は泣き止まなかった。
     薫が言う、れいくん、それが大好きなお兄ちゃんの名前であった。苗字を朔間、名を零と言った。彼は薫よりも五つ歳が上で、黒髪に赤い目の、大層綺麗なお兄ちゃんだった。お日さまが苦手らしく、外で遊んでるのを見たことはない。運動会にも出ていなかった。そのせいか肌は陶器のように白く綺麗であった。薫は外で駆け回っては転んで絆創膏だらけになっていたので、まるで別の生き物のようだった。そんなに違っているのに仲が良かったのは、家が近かったからというのが大きい。零の家は、薫のすぐ隣であった。大人であれば、窓を開けて身を乗り出せば隣家の窓に手が届くほどに、家と家は近かった。
     始まりは、薫の引っ越しであった。
     薫がこの街に越してきたのは半年ほど前、所謂親の都合というやつでの引っ越しで、薫は憂鬱であった。家の周りは静かで、公園などもなく、子供にとっては地獄のような場所だった。
    「隣のお家にも薫と同じくらいの男の子がいるんだって。挨拶しておいで」
     母に言われ、隣の家のインターホンを押そうとしたが、隣の家はなんだか暗くて、怖くて、結局薫は挨拶ができなかった。そんな薫を、母は叱るでもなく笑って見ていた。
     その日の夕方、母に連れられてやっと隣の家に行ってみると、昼間よりも不気味で、薫は今にも泣き出しそうであった。ピンポーンとちゃちな音がして、しばらくしてからドアが開く。どんな恐ろしい人が出てくるのかとビクビクとしながらもドアから目が離せない。数十秒にも数分にも思えた長い時間をかけて、ドアの向こうから姿を覗かせたのは、幼い男の子であった。
    「こんにちは。お母さんかお父さんはいる?」
     母はにこやかに少年に話しかけた。少年は年不相応に大人びた顔で、「いません」と答えた。その声を聞いて、薫はようやく母の後ろに隠していた顔以外の体を前に進ませた。その声は、薫の耳にドッと流れ込んで、そのまま心を鷲掴んだかのようだった。いわば、一目惚れならぬ一声惚れであった。
     少年はそこで初めて薫に気がついたらしく、薫にむかって軽く微笑んで会釈してみせた。薫はというと、それだけで心臓がバクバクとなってしまって今度は顔まで隠してしまった。少年が声を出して笑う。その声はやはり心地よくて、薫はこっそりと顔を覗かせた。その瞬間バチリと目が合う。薫はあ、とかえ、とか、意味のない言葉を言いながらまた隠れてしまった。
     それからのことはあまり覚えていない。なんだか母が色々話していたみたいだけど、薫はそれどころじゃなかった。あの少年の声が、笑顔が忘れられなくて、母の後ろで目を擦ったり耳に手を当てたりしていたが、目を瞑れば彼の笑い顔が見えて、ふとした時には彼の声が聞こえた。もしかしたら病気なのかもしれないと恐ろしくなったが、母には心配をかけたくなくて言えなかった。
    「隣のお家の男の子ねえ、零くんって言うんだって。弟くんが凛月くんよ」
    「れいくん」
    「そう、零くん。今度会ったらちゃんと挨拶するのよ?」
    「うん……」
     母にそう言われたが、薫にはそれは到底不可能なことに思えた。あんな綺麗なお人形みたいな人に、自分が挨拶なんてできるんだろうか?
     しかし、そのタイミングは恐ろしく早くやってきた。
     まだベッドしかない自分の部屋で、唯一の家具から少し離れて、窓を開けた。夜風がびゅうと吹いて、思わずわあっと声を上げる。すると目の前の窓がガタガタと鳴って、何事かと思う間も無く夕方の彼、零が窓の向こうに見えた。
    「よう」
     彼はさっと窓を開けて、片手を上げて挨拶して見せた。薫はフリーズしてしまって、何を言えばいいのやらわからない。零くんが俺に声をかけてくれた! 薫にはその事実でいっぱいいっぱいだった。
    「あれ? お前、喋れねーの?」
    「し、喋れるよ!」
     零の言葉に思わずムキになって言い返すと、零は笑った。
    「喋れるんじゃん。俺は朔間零。あんた……えーっと…カオリ?」
    「か、お、る!」
    「わりーわりー、薫くんな。薫くんって何歳?」
    「薫もう二歳だよ」
    「へえ、じゃあ凛月より年下か」
    「凛月って、零くんの弟?」
    「そう、おい、凛月!来いよ!」
     零は後ろを向いて叫ぶ。凛月は隣の部屋にでもいるのだろうか。しかしその声に返事はなかった。零は苦笑した。
    「まだ起きてると思うんだけど、どうしたんだろ。まあいいや、これからよろしくな」
    「あ、うん……」
     零が身を乗り出して手を差し出してくる。危ないと思いながらも、薫も同様にして握手した。
     それが、薫と零の出会いだった。

    「薫〜、聞いたぞ、お前今日大泣きしたんだって?」
     セリフだけ聞けばいじめっ子のようなことを言いながら、零はどことなく嬉しそうであった。
    「泣いてないもん」
    「嘘だあ、俺んとこの部屋まで泣き声聞こえてたぜ」
     まさか聞かれていたとは。薫は赤面した。
    「薫泣いてないもん」
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