抱きしめたい(雑踏) 俺たちを知らない人しかいない雑踏の中で、不意に抱き締められることがあった。信号が赤に変わって、立ち尽くすしかない時に、彼は後ろから俺を抱き締め、甘えるように鼻をこするのだった。周りの人間は何も言わない。だって俺たちはただの通りすがりで、狡噛慎也と宜野座伸元が抱き合っているなんて、誰も知るところにないから。あの時、狡噛が何を考えていたのかは分からない。ただ見知らぬ誰かに俺を自分のものだと主張するのが、彼の幼い独占欲であることは分かった。でも、俺なら自分を知る人の前でも抱き合えるのに、彼はそうではないらしい。
「あなたたちって、本当によくくっつくわね。そんなに寒いの? 部屋の温度を上げましょうか?」
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