コカ・コーラ「それじゃあ、おやすみ」
キィと扉が閉まり、足音が遠のいていく。
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今日は同期の仲間達との飲み会だった。普段から一つ屋根の上暮らしているが、五人が揃ったのは久しぶりでついつい皆の飲むペースも早まってしまった様だ。
初めに潰れたのはサニーだったか、会の中間あたりでうつらうつらと首を揺らし気がつけばアルバーンの膝で寝息を立てていた。
アルバーンもだいぶ酔っていたようで、サニーを連れて寝室に戻って行った。
残ったユーゴと俺とふーふーちゃんで暫く飲んでいたが、明日の配信の準備もあるからと25時辺りに会はお開きになった。
俺も部屋に戻ろうとソファから立ち上がるが、どうも足元が覚束無い。そんなに酔っている自覚は無いが、このまま自室のある2階まで向かうのは少し億劫で、そのままソファに再び沈み込み目を閉じた。
*
「......き、浮奇、おきろ」
「...ふーふーちゃん?」
「今夜は少し冷えるらしい。ここで寝ると風邪をひくぞ」
心地のいい低い声に目を開けるとら視界に飛び込んできたのは銀色だった。こちらをのぞき込む彼はどうやら風呂から上がった後のようで、綺麗な銀髪が湿り、背後から室内照明に照らされ輪郭がぼやけて見えた。その薄い光を掴みたくて頬に手を伸ばす。
「どうした」
「ふーふーちゃん、綺麗だねぇ」
「......だいぶ酔ってるな」
酔ってないよと口に出す前に、ふわりと体が浮き上がった。慌ててバランスを取ろうと体を持ち上げた彼の首に手を回し体重を預ける。
「このまま放っておいても部屋に戻らないだろう、部屋まで運んでやる」
「...ありがとう」
体を持ち上げてくれた彼の腕は冷たく、しかし身を寄せた胴体は妙にしっとりとした熱を帯びている。一歩歩く度に香る髪の香りで彼が風呂上がりだということを思い出した。その清潔な香りと体温の差は、アルコールに浮かされた俺の頭をよりくらりとさせた。
自分の寝室に着き、優しくベットに下ろされる。「今日はもう寝ろ」と俺の髪を梳く、ベットサイドの薄暗いランプの光に照らされた彼の表情はそれは優しいものだった。
彼に触れられた頭が気持ちよくて、俺を見つめる瞳に熱が籠っているように錯覚してしまう。行かないで、このままずっと触れていて。そう言いたいのに、言える関係でない事に胸が苦しくなる。今声を出せば変に震えてしまいそうで、静かに頷いた。
彼の足音が聞こえなくなり、ベットの中で目を閉じる。しかし一度体温が上がってしまうと中々寝付くことができなかった。
眠ろうと瞼を閉じると思い出すのは彼の香りと暗がりに浮かぶ優しい表情。その繰り返しで、体は昂るばかりだった。
何か冷たいものでも飲んで落ち着こうと、ベットから起き上がり配信用に用意した飲み物用の冷蔵庫を開ける。
さっぱりとしそうだし、シュワっとしたものにしようかと炭酸を探すと目に止まったのは赤い小さな缶だった。光沢のあるその赤いジュースの缶は彼の腕や足の様で、何処まで行っても思考は彼から逃れられない。
思わず缶ジュースに手を伸ばす。その冷たさは抱き上げられた時に感じた彼の腕の冷たさとよく似ていて、まるで彼に触れられているような錯覚に陥る。気がつけば缶を肌に添わせ、昂る自身を慰めてしまっている。
「ふーふーちゃん、ふー、ふーちゃん」
誰にも聞こえないくらい小さく彼の名前を呼ぶ。触れられたい、あの冷たい指に。抱きしめられたい、暖かい体に。キリがない程溢れてくる欲望に身を任せ、果てた先は赤い缶だった。
*
少しずつ冷めてきた頭は、己の愚行を理解し始め、思わず苦い笑みが零れた。
こんな理性のない人間じゃなかったのに、これも全部アルコールと彼のせいだと責任を転嫁する。俺がこんな事をしていると彼が知ったら軽蔑するだろうか。
「おやすみ、ふーふーちゃん」
倒れ込んだベットのシーツは冷たかった。