桜の花が咲く頃に 本丸の庭では今、桜が満開を迎えている。澄み切った青空を見上げれば、「お花見日和だね」なんて声がそこかしこから聞こえてくるような、そんな陽気。だけどお花見は昨日したばかりで、それはとてもとても盛り上がって、笑って、泣いて、最高の宴会だった。私は昨日の桜を、そして皆の笑顔を一生忘れないだろう。……いけない、そろそろ行かなくちゃ。
「主」
背後に控えていた和泉守兼定が私のことを呼ぶ。その声は無感情のような、かと思えば少しの弾みで涙を零してしまいそうな、矛盾した色を抱かせた。
「……はい」
振り返ってはいけない。約束したのだから、最後は笑顔で──と。
「本当に、行っちまうんだな」
「最初から分かっていたことです。きっとこの日が来るって」
3119