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    Unyanyanganyan

    @Unyanyanganyan

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    Unyanyanganyan

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    るい誕生日おめでとう!/類司

    魔法使いは夜とともに「司くん、あのさ、」
    「類! 言わずとも分かっているさ!」

     教室に響く司くんの高らかな笑い声。腰に手を当ててひとしきり笑った後、ビシッと指を指して司くんが言った。

    「明日のことだろう、類。ああ、わかっているとも」
    「そうかい? それは…」
    「明日の二十三時、だな」

     先程の威勢は何処へやら。司くんはしっとりと低い声でそう告げる。じめじめしたこの時期の教室は蒸し暑くて、少しだけ髪が張り付いて鬱陶しい。それでも司くんはまるで何でもないかのように爽やかに、新緑から吹き抜ける初夏の風を感じさせた。

    「また眠ってしまわないかい?」
    「それは、もう言うな…お前がなかなか来ないから」
    「ふふ、そうだね。僕ももっと早く行けばよかったと思った」
    「いや、時間通りに来ていたのだから、遅くはないだろ」

     少し赤くなった頬が可愛くて、思わず噴き出してしまいじろりと睨まれる。そんなやり取りだって、全部が大切だと思えた。少しだけ早く一歩先へ進む君、明日僕はまたそんな君に並ぶ。追いかけて、追いついて、そんな繰り返しの中でこれからもずっと、君と笑い合って過ごせたら。

    「フッフッフ…、類! いいか。それでは先月と同じだろう!」
    「司くん?」
    「お前はオレの誕生日の最後をくれと言ったな。ならばオレは、最初ももらう」

     得意げに笑う司くんが大袈裟にポーズを決めて。きっとそれは精一杯の照れ隠しなのだろう、と思う。まいったな、君はいつだって僕を喜ばせてしまうのが上手いのだ。

    「類、」
    「今日、とあした」
    「二十三時、セカイで」
    「寝不足になるよ」
    「なんのこれしき」

     最初から最後まで、ね。そんなに、貰ってもいいのかな。もしかして、今年の誕生日は、生涯で一番贅沢じゃないだろうか。君の誕生日だって、わがままを言って僕が君の最後の一時間を貰ったのに。

    「なぜ難しい顔をしている。もしかして、イヤ、か?」
    「イヤだって? まさか。そんなわけが無い」
    「なら、なぜ眉間にしわを寄せとるんだ」

     司くんに指摘されて、指で眉間を揉む。そんな顔をしていたのか。

    「類、言いたい事があるなら」
    「いいや、君が思うような事は何もない」
    「じゃあ、予定でもあるのか?」
    「無いよ」

     司くんの顔がみるみる曇って、僕は思わず焦った。

    「司くん、ごめん、違うんだ」
    「だが、」
    「…君の誕生日の時も、僕が君の時間を貰ったのに、今度はその時よりも君から時間を貰うだなんて、」
    「お前はいちいちそんな事を気にしてオレと一緒にいるのか? 普段は散々なくせに」

     指すような形にした指が、ふにゃりと僕の鼻先を潰した。司くんは僕の鼻をぺしゃんこにしながら、ふ、と息を漏らして笑う。

    「お前がオレの時間を貰っているのなら、オレもお前の時間を貰っている」

     え、と返すと、フハハハといたずらな顔で君は笑った。





     二十三時のセカイは静か。
     君が柔らかく街灯に照らされて僕を待つ。

    「今日のセカイはいつにも増して静かだね。それに、灯りもここしかない」
    「ああ、そうだな。だが、オレたちだけだから問題ないだろ」
    「まぁ、そうだね」

     司くんは背中に何か隠していたけど、何度も後ろ手に確認をするものだからバレバレで。気付かないフリをしようにも、可笑しくてすぐに笑ってしまった。

    「なぜバレた!」
    「だって、ずっと気にしているんだもの」

     僕の誕生日には、まだあと五十分近くもあって。先に見てはダメかい? と聞くと、それはダメだと言われてしまった。気になるけれど仕方がない。

    「明日は、家族とパーティーなんかはするのか?」
    「いいや。特には。外に食べに行くくらいじゃないかな」
    「そうか」
    「もっと子供の頃は、寧々やご両親が来て一緒に誕生日会をしたかな」
    「そうなのか、二人はまるで兄妹みたいだ」
    「ああ、そうだね」

     二人きり。セカイには僕たち以外には誰も存在しないような夜だった。どこを見渡しても、ひとつの星さえも見えない。二人の座るベンチをぼんやりと照らすライトだけがこのセカイを形にしている。不思議な夜だ。けれど、何故かそれがすんなりと馴染むのだ。
     ぼやりと浮かんだ司くんの明るい髪の色が、ふわふわと白けて浮かぶ。瞬きのたびに肌に落ちるまつ毛の影。形のいい唇がぱくぱくと動いて、僕に言葉を投げかける。

    「類。眠くないか?」
    「眠くないよ。君は眠いだろ」
    「そうだな、ふふ。まあまあ」
    「明日は授業中に居眠りかい、司くん」
    「そんな心配はご無用だ」

     学校でも、ステージでも、毎日顔を合わせ、言葉を交わし。それでも僕たちは、まだ話し足りるなんてことは全然無くて。気が付けば日が変わるまで、もうあと二分というところだった。

    「うむ、そろそろいいか」

     司くんはゆっくりと背中の方から四角い箱を持ち出して、そっと僕の膝の上へ置いた。澄んだ空のような包装紙に包まれ、夜のようなリボンで結ばれている。

    「開けても?」
    「ああ」

     指先で摘んでしゅるりとリボンを解くと、そのまますうっと闇に溶けてしまった。

    「…これは、一体?」
    「細かいことは気にするな」

     包装紙がぺりぺりと捲れ、煙になって霧散する。どんな仕掛けがあるのか検討もつかないまま、白のような透明のような不思議な箱が姿を見せた。つやつやとその表面に僕と司くんが写り込んでいる。

    「類。おめでとう」
    「司くん。ありがとう。一番に祝ってくれて」

     僕はゆっくりと箱の蓋を持ち上げると、箱はそのまま展開図のようにぱらりと立体を手放した。

     無数の星が煌めく。

     いや、これは、

    「ほたる、」
    「…のようなものだ」
    「それは…」

     僕の言葉を遮るように、司くんが目線を上へ走らせる。僕も追いかけてその先を見た。ふわりふわりと無数の光たちが空へと昇って、消えては灯り、灯っては消えて、僕と司くんの周りをきらきらと輝かせて行く。随分と高くまで上がって行った光たち。そのまま、まるで初めからそこで瞬いていたような星たちへと姿を変え、その一箇所を中心に、今までなかったはずの星たちが次々に輝き出す。波紋が広がるように光が灯る。
     僕は目の前で繰り広げられる出来事に言葉を失って、ただそれをひたすら見ていることしか出来なかった。司くんは一体どうやってこんな事を。

    「類。オレは、お前と出会って、忘れていた大切な想いを再び手にする事が出来た。お前の与えてくれるたくさんの演出は、オレに新たな気付きをくれる。今のオレを表すとしたら、お前の存在は無くてはならないだろう」
    「…ふふ、なんだかくすぐったいな」
    「類、…感謝している」
    「僕の方こそ、君には感謝してもし切れない」

     きらきらと輝きを増す満点の星空から、シャラシャラと星屑が音を降らせる。司くんがまっすぐ僕を見て、星空よりももっと輝く瞳と交わる。夢のように白く光る司くんの手のひらが、そっと僕へと伸びてきて頬に触れた。

     ゆっくりと、ゆっくりと。

    「お前には、たくさんの驚くような演出を貰っている。時々、正気か疑うような時もあるが…、だが、オレは、」

     僕よりも少し低い司くんの顔が僕へと近付いてきて、僕の視界はさらさらと揺れる金でいっぱいになった。

    「オレは、お前の作る演出が、好きだ」

     こくり、と僕の喉が鳴った。司くんの顔は見えない。

     すう、と息をつく音がして、司くんの髪が揺れる。

    「お前が、すきだ」


     ザアァ、と一陣の風が僕たちの足元から吹き抜けた。その陣風の波を追いかけるように、無数の、無数の、光の苔が地面へ広がっていく。ぽわり、ひとつ。ぽわり、ふたつ。緩やかに僕たちの周りを漂って揺らめいていく。

    「司くん………、司くん」
    「どうだろう、オレの演出は」
    「………これ以上は、きっともう出会えない」
    「そうか」

     光に浮かぶ司くんの顔が、ゆっくりと僕へと向く。優しくて、胸がぎゅうっと締め付けられるようだった。そっと笑う君に心が抱きしめられて、どうしようもなく暖かかった。目の奥が熱くなっていくのがわかる。ダメだ、泣くな。僕はまだ、

    「類、見ろ」

     司くんの声に、僕も同じ方を見る。

    「灯りの無かった時には、この世界も無くなってしまったように思えたが、今はこんなにも広い」
    「君の創り出したセカイは、優しい明かりに満ちていて、綺麗だね」
    「ああ、そうだろう」

    「ひとりでは、このセカイにはならなかったんだ」

     ほわり、セカイに光が揺れる。セカイの果てまでも照らし出して、暖かく柔らかく。星屑はメロディを奏で、君の笑顔は、祝福だった。

    「ああ、司くん。僕は、」

     光に満ちたセカイで、生まれてきた事を感謝した。君と出会った僕を。これからの僕を。

    「君を好きになって、よかった」
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    Unyanyanganyan

    MEMOなんのカップリングでもない小説でもない独り言です。
    無題 一年前の夏。景色はあまりに鮮やかだった。絵の具を零したような彩度で飾られた風景と、全てが物語の一部のような日々だった。私は、彼女が好きだった。彼女が好きで、自分自身も好きになろうとしていた。自分を受け入れようとして、自分を許せる気がしていた。

     きっと上手くいくと思っていた。ゆっくりと、ゆっくりと、新しい何かが生まれてくるような心地に生きていた。

     それを、全部、捨ててしまおうと思ったのはいつからだったか。頑張って、努力して、我慢して、我慢して、我慢して、まだ頑張れて、まだ平気で、進み続けているうちにもうダメな場所にいる事にも気が付けなかった。
     鮮やかだった夏の景色は色褪せた。風に揺れる木の葉の音色が好きだった気がする。でももうそんなものは聴こえてこなかった。鉛玉を舐めているような毎日だった。人を憎んだ。憎くて、憎くて、この世界が消え去って欲しいと願った。何もかもがつまらなかった。くだらなかった。好きではなかった。そんな腐った感情を飲み下して笑った。人と会話を交わした。全ては嘘ばかり。何一つ興味もなくて、何もかもがどうでも良くて、私はただの嘘吐きになった。嘘が嫌いだった。自分も嫌いだった。自分が憎くて憎くて、殺してしまいたかった。つまらないくせに、楽しそうに過ごす自分が憎かった。
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