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    ponkikino

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    博物館でのアズと監の話を聞いていたジ→アズのジが監督生と喋る

    「あなたのこと、嫌いなんですよね。」
    閉店後のモストロラウンジ。大理石の模様に着飾ったメラニン化粧板の机を丁寧に拭きながら、ジェイドは唐突にそう言う。
    「嫌い?」
    同じく後片付け中だった監督生が手を止める。水槽に反射したジェイドの顔を捉え、へぇ、と小さく息を吐いた。
    「居残りまでして働いてる後輩に対して、ちょっと酷いんじゃないですか。」
    今、この空間にはジェイドと監督生、2人しかいなかった。閉店時間はとうに過ぎ、現在時刻は23時。閉店は21時で、バイトが帰るのは基本22時だ。
    「おや、あなたは正規に雇っているわけではありませんよ。」
    監督生は気まずげに顔を逸らした。つい先日ここに食事をしに来た際、グリムがラウンジの備品を壊したのだ。今日はその補填の、無賃労働というわけだ。だからこそ、労基法に基づいた高校生が働ける時間を超過させられているとも言える。
    2人の沈黙の間に、ふなー!というグリムの叫び声が聞こえる。続いてアズールの怒鳴り声。グリムは今日も皿を何枚か割っていた。どうやら監督生が解放してもらえるまでにはまだもう少しかかりそうだ。
    だから正直、2人とも時間を持て余していた。机の掃除は2週目だ。他にやることはないが、しかし2人ともアズールに待てを言いつけられていた。
    「なんで嫌いなんですか?」
    ジェイドが目をやると、観葉植物に水をやっていたはずの監督生の顔がすぐそばにあった。彼女はそのままくるりと回り、ジェイドが拭いていた机に備え付けられた合皮のソファにおさまる。
    「お仕事は」
    「水やりは終わりましたよ」
    監督生はへらりと笑う。薄紫色の短い猫っ毛が揺れた。この顔が嫌いだな、とジェイドは思った。媚を売るような、当たり障りがないつもりのこの笑顔が。
    「どうして知りたいんですか?そんなこと」
    「好奇心です」
    嫌いだ。ジェイドはまた思う。本当はこの空間だって耐え難いのだ。
    「僕があなたのこと嫌いなところを話せば、直してくださるんですか?」
    そうまでして皆に好かれたいのか、強欲な女、愚かな人間。言外にそう言う。
    監督生はしばし、悩むようにした。嘘の大理石にテラテラと映り込む自身を見据え、それからまたしっかりとジェイドを見上げた。
    「正直、ジェイド先輩に好かれても…仕方ないですね。ここで働くか、食べに来るかしない限り会わないですし。」
    だったら、とジェイドが反論する前に、さっぱりと彼女は続ける。
    「ただ、ジェイド先輩って嫌いな物に興味なさそうだから。わざわざ嫌いって言うってことは何かあるのかな。って。」
    嫌いだ。3回目だ。この短時間に。
    違いますか?失礼だったらすみません。薄暗い室内で、青い水影が彼女の顔にかかっている。彼女の左目の横の黒子を照らす。監督生はまた笑う。
    カァっと頭に血が昇った。気を抜いたら、握りしめた拳があらぬ方向にいってしまいそうだ。ここに赤が飛び散ったらアズールは怒るだろうか。でも、大丈夫。作り物の大理石だ。作り物の皮だ。ジェイドがゆらりと立ち上がったその瞬間、大きな音を立ててVIPルームの扉が開いた。
    「監督生さん!ジェイド!お待たせしました。」
    パッと我に返ると、監督生はすでに立ち上がり、グリムに駆け寄っている。
    「ひどい目にあったんだぞ〜…」
    目をとろかせて涙を流す毛玉を監督生は抱きとめる。
    「でも今回はグリムが悪いんだよ。お皿洗いサボってたでしょ。」
    猫のような狸のようなモンスターを腕の中でぐりぐりと弄り、肉球で反抗されてケタケタと笑う彼女に、先程までの怒りはもうなかった。
    「ジェイド」
    不意にかかったアズールの声に、ジェイドの返事は一拍、遅れてしまった。
    「はい」
    「待っていてもらってすみません。今日はもう遅いので明日にしましょう。」
    「もうお休みになりますか。」
    「そうですね…」
    「では、ナイトティーをお持ちいたしますね。」
    「いいえ。必要ありません。」
    何気なく、それでいてピシャリとした拒絶。毎晩淹れる紅茶を必要がないと言われることはままあった。気分じゃないとか、忙しいとか、別に明確な原因はジェイドにはない。わかっているけれど、今日はどうして、ジェイドの心に出所不明の感情が渦巻く。これは怒りの感情ではない。ジェイドにはそれだけしかわからなかった。
    「それよりお前、VIPルームからでも感じましたよ。」
    先ほどの殺気の事だろうか。にこやかを貼り付けられていたジェイドの顔がひきつる。
    「無闇に問題を起こすな。」
    ジロリと睨みあげられてジェイドの表情からは感情が消えた。そんなことには気づかず、アズールは監督生に、教師に見つかる前に早く帰るよう告げている。
    帰路につこうとする監督生の後ろ姿。彼女のために、ラウンジの重い扉をアズールが開けた。
    編み込みから垂らした三つ編みを揺らし、監督生は頭を下げてお礼を言う。毛玉は後ろに隠れたままだ。アズールがにこやかに返事をするのを見て、こめかみが疼いた。
    どうしてこの女が嫌いなのか。ジェイドは結局上手く言葉にできないのだ。どうして言葉にできないのか、それすらもわからない。ただ、心底嫌いだ。彼女には、怒りがある。
    重い扉が閉まる。ジェイドはラウンジに1人取り残される。
    では、アズールには?
    ジェイドは自身に問うた。自分は、アズールにはどんな感情を抱いているのだろう。たかだか高校生の茶番のお店。されど、自分が美しく磨き上げた大理石の柄。そこに映る自分を、ジェイドは直視できなかった。
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    ponkikino

    MAIKING博物館でのアズと監の話を聞いていたジ→アズのジが監督生と喋る「あなたのこと、嫌いなんですよね。」
    閉店後のモストロラウンジ。大理石の模様に着飾ったメラニン化粧板の机を丁寧に拭きながら、ジェイドは唐突にそう言う。
    「嫌い?」
    同じく後片付け中だった監督生が手を止める。水槽に反射したジェイドの顔を捉え、へぇ、と小さく息を吐いた。
    「居残りまでして働いてる後輩に対して、ちょっと酷いんじゃないですか。」
    今、この空間にはジェイドと監督生、2人しかいなかった。閉店時間はとうに過ぎ、現在時刻は23時。閉店は21時で、バイトが帰るのは基本22時だ。
    「おや、あなたは正規に雇っているわけではありませんよ。」
    監督生は気まずげに顔を逸らした。つい先日ここに食事をしに来た際、グリムがラウンジの備品を壊したのだ。今日はその補填の、無賃労働というわけだ。だからこそ、労基法に基づいた高校生が働ける時間を超過させられているとも言える。
    2人の沈黙の間に、ふなー!というグリムの叫び声が聞こえる。続いてアズールの怒鳴り声。グリムは今日も皿を何枚か割っていた。どうやら監督生が解放してもらえるまでにはまだもう少しかかりそうだ。
    だから正直、2人とも時間を持て余していた。机の掃除は 2255

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