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    tatara_boshi

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    tatara_boshi

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    ちょっと形にしてみようかなと思っているものの書きかけです。

    #夏五
    GeGo
    #五条悟
    fiveGnosis
    #夏油傑
    xiaYaoge

    タイトル未定プロローグ


     五条悟は数少ない休日に映画を観る——。
     それは無趣味な彼の数少ない習慣だった。
     私物化している高専の薄暗い地下室には、無作為に買いそろえたDVDがズラリと並び、ローテーブルに山積みになっている。
     深々と皮張りのソファに腰掛けて、明かりも点けずにぼんやりと画面を眺めるその顔には少しばかり疲れの色が浮かんでいた。
     今流れているのは数年前のヒューマンドラマ作品——。
     実父と義父に2度も妊娠させられ、母親には愛されず、学校にも通えずにいた16歳の少女。そんな悲惨な状況に置かれた少女はある日、一人の教師と出会う。そこから始まる人生の転機——。文字の読み書きができるようになって、友人もでき、愛を知る。まさに人生の目覚め。そして最後は母親が主人公に今までの行いを涙ながらに謝罪し、母親との関係が改善。そして最後は、二人の子供と共に実家を出て幸せに暮らし始める——というお話。
     16、17歳という年齢は大人と子供の狭間にいる不安定で、危うい年頃。成長途中で子供から大人へと劇的に羽化していく美しさ。そういうのに惹かれるのかもしれない。
     ——そう。 あの頃、あの時が悟にとって人生で一番劇的な変化があった、美しい色彩で彩られた時期だったのだ。初めて学校の門をくぐったあの日から、悟もまさに映画の主人公のように、共に学ぶ友を得て、一般社会での常識を知り、遊びを教えられ、人を愛することを知り、そして愛される喜びを教えてもらったのだ。
     それら全てを傑が与え、別れ際には喪失感と諦念と、それから孤独を与えた——。
     10年——。10年だ。思い出が劣化するには十分過ぎる時間だ。もちろん、人が変わるのにも——。それだけの時間があれば、過去の思い出など忘れて、幸せになることだってできる。ましてや裏切った相手の思い出など積極的に忘れていきたいものだろうに、悟は目を閉じると時々あの頃のことを思い出せるという。それだけ、五条悟の中の夏油傑という存在は大きいものだった。
     与えてもらったものへの甘美な喜び——。
     それらを思い浮かべるだけで胸がときめく。傑と袂を別った今でも、あの頃の思い出を胸の奥に循環させ、そして外へ出さないように蓋をする。そうすれば、いつまでも綺麗なまま劣化せずに死ぬまで抱えていけるに違いない、と思うのだった。
    ——あの時、傑の手を取って「俺も一緒に行くよ」、って言ったら、傑はなんて言っただろう。「OK、分かったよ」あるいは「馬鹿だな悟は」だろうか。
    否、きっとそうはならなかったろう。
    やっぱり結末は同じで、無感情に僕に背を向け、去っていくのだろう。
     傑の決意は変えることはできない。何人たりとも。たとえ、かつての恋人であった自身でさえも——。

    ー殺したければ殺せ。それには意味があるー

     あの言葉が全ての答えだろう。
     あの頃の甘美な日々はもう二度と戻ってこない——。自分の心の中にしか存在しないことを悟は受容していた。そう諦めることで悟は大人になった。
     次に逢うのは相手を自分の手で殺すとき。たとえチャンスがあって生かして捕らえることができたとして、傑が悟の元へ戻ってくることはないのだ。
     分かってはいる。答えも出ているが、蓋をした筈の胸の奥で17歳で時を止めた悟が泣き叫ぶのだ——。どうか殺さないでと、2度も失くしたくないよと、駄々を捏ねて泣いている。どうして今更、そんな感情に苛まれるのか、それは明日が12月24日——。夏油傑が百鬼夜行を行うと宣言した日だからであった。
     耳を塞いでも、心の声は塞ぐことはできない。気付けば悟は立ち上がり、微かに電波の届くドアの前に移動し、携帯に登録してある上層部へと繋がる秘匿回線へとコールしていた。
    「五条です——トラブルはありません。はい、その点はぬかりありません——いえ、実は一つ懸念事項と、それから提案がありまして——」
     全ての感情を殺したような、無機質な声。
     ——電話は10分ほど続い
     電話が済むと悟は携帯を放り出し、そのままソファに沈み込んでローテーブルに手を伸ばし、同級生の硝子に処方してもらった睡眠薬を掴みとる。1回分の分量を口に放り込み、一気に飲み込む。
     これで少しは眠れる。
     悟は瞼を閉じる。次第に意識は暗闇へと落ちていき、そして暫くすると薄ぼやけた景色が広がる。
     これは夢。何度も見たことがある夢だった。
     そこには海辺で佇む傑が居る。
     いつかの沖縄の青い海。
     悟の存在に気が付くと「そこにいたのかい、悟」と傑は手を振り、そして微笑む。
     思い出の中の彼と同じく、柔らかく人好きのするような笑顔。
     大好きだった笑顔。
     二度と自分に向けられることのない笑顔。
     ——永遠に。
     その現実を悟はポロポロと涙を流しながら受け入れるのだった。
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    DONE2021/11/7 夏五オンリーで出す予定だった無配もったいないから出します。
    不気味の谷 五条悟と再会したのは、桜けぶる春風が前髪をさらう大学の入学式でのことだった。
     あんまりにも長閑で退屈で面白みに欠ける大学生活初日。ホヤホヤの新入生を招き入れようとサークル勧誘の列が大きく口を開ける桜並木の下で、私は脳裏をつんざく白髪の男と再会した。頭ひとつ分飛び抜けた五条悟と人混み越しに目が合うなんてベタな展開に、思わず腹の底から漏れ出た笑いを噛み殺すのに失敗する。けれども、餞別とばかりにニコリと微笑みを返してやれば、五条悟は急速に興味を失ったのかフイと視線を逸らし私とは逆方向に歩いて行ってしまった。はて、確実に目が合ったはずなのにこの反応はどういうことだ。そりゃ五条悟にとっての夏油傑とは、決して良い思い出ばかりでは無かっただろう。楽しかったと呼べるのはほんの三年にも満たない時間で、残りといえば裏切られた苦い記憶とせいぜい侘しさなんてところではなかろうか。しかし、こう言っては何だが夏油傑を見つけて興味を示さない五条悟なんて存在しうるとは到底私には想像つかない。見捨てられ、取り残されようと、わざわざ息の根を止めにやって来るほどに執着を傾けて来た男だ。そんな人間が、私をそこらの芋虫を眺めるような視線で見るだろうか。そこまで考え、ふと思いつく。もしや五条悟は前世の記憶が無いのではないか? 自分にすらこびりついているってのに五条悟がすっからかんなのは不思議ではあるが、ありえない話ではない。そうでなければ自分の姿を認めた瞬間、人混みを薙ぎ倒しすっ飛んでこなきゃおかしいだろ。まあ、呪霊もいなければ六眼も持っていなさそうな今世の五条ならば仕方がない話ではあるが。いくら五条悟と言えど、今やただの一般人。包丁で刺せば刃は届くし、数人がかりで襲い掛かれば殺せるだろう。そういう、しがないちっぽけな人間だ。よって記憶を引っ提げずに私の前に再び現れたとしても、それはまったく不思議なことではない。まあ、無かったところでやることはただ一つ。
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    TRAINING5/14ワンライ
    お題【祝福/胡蝶の夢/ふりがな】
    幸せで、怖い夢をみる五条のお話です。高専時代のお話。
    毎夜みる夢 繰り返し何度も見る夢がある。俺はその中で高専の教師をしていて、硝子や、面倒だが可愛らしい生徒たちに囲まれている。そしてそんな俺の隣には髪型を変えた傑もいて、彼もどうやら俺と同じく教師らしいことが分かる。俺たちはその夢の中では呪術師を続けていて、やはり友人であり恋人同士だった。
     ここまではよくある俺の願望なんだろう。でも不思議なのは、見たこともない小さな女の子の双子二人が傑になついていることで、彼女らは俺にひらがなで書かれた肩たたき券(肩の部分には可愛らしいふりがながふられている)をくれる。「傑さまと仲良くしてくれてありがとう」「傑さまは寂しがり屋さんだから」そんなふうに俺に言った後、「結婚式は私たちがお花を撒いてあげるからね」なんてませたことを言ってきゃーって叫びながら走り去ってゆく。どうやら彼女らは俺たちの関係を知っているようで、傑も俺もここにいる人々には隠していないようだった。俺が面倒を見ている生徒たちも笑っている。「早く結婚しなよ先生」「見てるだけで恥ずかしいから早く結婚したら」「傑さんと一緒にいたらちょっとはマシになるんじゃないですか」生徒たちは口が悪かったが、俺たちの仲を祝福してくれる。いやあ、僕もそろそろ結婚したいんだけどね、傑が恥ずかしがってさぁ。——僕? あれ、俺は今僕って言った? なんで? そういえば傑がせめて僕って言えって言ってたよな。俺って言うのはよしたほうがいいって。夢の中でそれを思い出してるのかな。俺はまばたきをする。しかし次の瞬間双子が消え、傑が消え、生徒たちも消え、結局残ったのは硝子だけだった。そして彼女は言うのだ。「また気づいちゃったね」と。「気づかなきゃ夢を見てられたのに」と。俺は混乱する。僕は混乱する。そしてまばたきをして、ぼんやりと天井に向かって手を伸ばす。この部屋には、最後まで残ってくれた硝子ももういない。僕は、いや俺は、自分の部屋でどうでもいい夢を見ていたことに気づく。すぐにどっちが夢なのか分からなくて、携帯電話を触る。表示された年月日から、まだ自分が高専生であることに気づく。良かった、俺はまだ高専生だ、傑もいる、硝子もいる、見知らぬ生徒たちや双子の少女たちもいない。俺は吐きそうになりながら着替え、傑の部屋を訪ねる。するとそこにはまだ眠っている彼がいて、俺はその横顔の尊さに泣きそうになりながらベッドの脇に座り込む。
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