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    somakusanao

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    somakusanao

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    死んでないけど死にネタです。陰陽師ココと死体のいぬぴ。
    いぬぴは出演だけです。

    #ココイヌ
    cocoInu

    イヌピーが死んだ イヌピーが死んだ。交通事故だった。前方不注意のトラックに跳ねられて死んだ。生前はイケメンだったのに、無残に顔も身体もぐちゃぐちゃだった。警察に確認してくれと言われたが、正直これがイヌピーだと分からないくらいだ。でも服はD&Dのツナギだったし、指輪にも見覚えがある。信じたくないけどイヌピーなんだろう。
     警察から家族に連絡してくれと言われたが、それはできなかった。イヌピーから「いざというときがあっても、親には連絡を取らないで欲しい」と言われていたからだ。オレが育ったファッションヘルスにも、そういう女たちは少なくなかった。イヌピーの親が毒親だったのか、それとも迷惑をかけたくないのかは知らないが、本人の意思を尊重したかった。
     その代わり、オレが呼んだのは九井だった。連絡先はイヌピーからじゃなくて、九井自身から聞いていた。「なにかあったときは連絡してくれ」と言われていた。オレもあいつは知っておくべきだと思った。
     気の進むことじゃねぇが、コールをする。意外なことに、一度目のコールでつながった。

    「ああ、オレだ。龍宮寺だ。じつは、その……イヌピーなんだが、ああ、ああ、そうだ。すまねぇ。イヌピーは……もう……息を引き取った」

     今までオレが九井に連絡を取ったことはなかった。電話をしたという時点で、九井はなにかを察したらしい。驚くほど話は早かった。九井はオレよりよっぽど冷静だった。すぐにこちらに来るという。
     ちょうど移動中でもあったのか、九井の到着はあっという間だった。慌てるまでもなく、急ぐわけでもなく、取り乱してもなく、ごく淡々としていた。無造作に布を取り払う。正直、オレは直視できなかった。二度目であっても、おもわず呻いてしまう。九井はやはり取り乱すことなく、顔を寄せて、肉の塊にしか見えないイヌピーにキスをした。どれほど好きだったとしても、躊躇うような状態のイヌピーにだ。
     ああ、オマエはイヌピーが好きだったんだな。
     こいつに連絡してよかったという気持ちと、こんな状態になるまえにイヌピーと会わせるべきだったという罪悪感が鬩ぎあう。声をかけられずにいると、九井は懐から出したなにかをイヌピーにペタペタと張りだした。文字の書いてある、たぶん札? だ。それを慣れた手つきで、あっという間に全身に張っていく。

    「お、おい、そんなもの勝手に張っていいのかよ」

     傷心しているのは分かるが、ちょっと行動が異常じゃないか? 
     だが九井はやはり冷静だ。好きな相手の死体だぞ。すこしは取り乱すんじゃないか? こいつはイヌピーのことが好きだったんじゃないのか? 混乱する。 
     続いて九井はなにやらを唱えだした。お経にしては聞いたことがない。どっちかというと神社で聞く祝詞に近い。オレにはよくわかんねぇけど。
     最後に印みたいなのを切って、九井は「まぁ、こんなとこかな」と呟いた。いったい何なんだ。
     ぽかんとしているオレに九井は「あと少しでイヌピーは蘇るぜ」と言った。よみがえる? 

    「おい、言っていい冗談と悪い冗談があるぞ」
    「とりあえず顔は治した。きれいなもんだろ」
    「え、……え?」

     さっき見たときはぐちゃぐちゃだった顔が、綺麗に治っている。は? なんだ? なんなんだ?

    「心臓も動き出した。呼吸もある。目を覚ますには二、三時間ってとこかな。警察と病院以外に、このことを誰かに言ったか?」
    「え、いや、まだ誰にも言っていない」
    「それは手間が省けた。助かるぜ」

     おそるおそるイヌピーに手を伸ばす。呼吸をしている。心臓が動いている。イヌピーはただ眠っているだけのように見えた。

    「おまえ、魔法使いなのか?」
    「ククッ、さすがイヌピーの同僚だな。まぁ、そんなもんだ」
    「おい、ちゃんと説明しろ」

     九井に詰め寄ると、肩をすくめて「陰陽師だよ」とのたまわった。陰陽師? ええと、聞いたことがあるぞ。

    「安倍晴明?」

     千冬から借りた漫画で読んだことがあった。やたらとイケメンの安倍晴明と女子高校生が全国を統一するめちゃくちゃな漫画だった。九井は「さすが有名人は知名度があるな」と軽薄に笑う。

    「そいつは正道の陰陽師で、オレのは邪道だ。ええと、安倍晴明は総隊長みたいなもんで、オレはまぁ、抗争が終わった後の後始末担当の平隊員ってとこだな」
    「平隊員でもこんな簡単に人を蘇らせることができるんなら、すげぇじゃねぇか」
     
     もしかしていざというときマイキーや他の連中を助けることができるんじゃないのか。口には出さなかったが、表情に出ていたんだろう。九井は「オレにこんなことができるのはイヌピーだけだよ」と肩をすくめる。
     
    「イヌピーは小学生のとき死んでんだよね」
    「え?」
    「とっくに死んでんの。それからもまぁ、五回くらい死んでる。さすがに堅気になってからは初めてだけど、もともと死んでるからかな。死にやすいんだ」
    「は?」

     どういうことだ、と眉を寄せるオレのまえで九井がイヌピーの顔に手を添える。頬をなぞっていた手はやがてこめかみのあたり、イヌピーの顔の痣に触れた。

    「イヌピーが火事にあったことは知ってる?」
    「ああ、なんとなくは」
    「その時に死んでんの。そのときにオレ自身の魂を使ってイヌピーの魂を呼び寄せた。一世一代いちどきりの術だ。その時にオレの陰陽師としての才能はすべて使い果たした。おかげさまでいまはほとんどの術はつかえねぇ。知識があるだけの一般人だな」

     九井はなぜか自嘲していた。正道とか邪道とかオレにはわからねぇが、それだけでかいことをしたってことだろ。

    「おまえはイヌピーのために命を懸けたんだろ。誇っていいんじゃねぇの?」
    「そうだ。オレが助けたのはイヌピーだ。魂を繋いだんだ。姿かたちは関係ねぇ。赤音さんと間違えるわけがねぇ」

     あかね? だれだそれは。
     オレの問いに九井は答えなかった。

    「つーわけでさ、イヌピーは死んでるから、二度は死なねぇの。成長しているように見えるのは、オレの身長が伸びたらイヌピーも伸びるようにしたから。病気にならない。破損もこの通りすぐに治せる」
    「不死身ってやつか」
    「オレが死ぬまではね」
    「は?」
    「オレの魂と引き換えに、イヌピーの魂をこの世につなぎとめてんだよ。だから言ったろ。邪道だって」
    「……そりゃすげぇな」

     たまにイヌピーが九井のことを話すときがある。ココはすげぇ奴だ。ココは頭のいい奴なんだ。やさしい奴なんだ。そして最後にこう締めくくるのだ。ココはもうオレのこと忘れてるかもしれねぇな。
     とんでもねぇ話だ。
     イヌピーがさみしそうにする一方で、九井が平然とした顔をしているのは魂が繋がっているからだ。一時の離別など、こいつにとっては距離が離れただけなのだろう。

    「おまえ、もしかしてオレが電話したとき、イヌピーが死んだの知ってた?」
    「まぁね。でも場所を特定できていなかった。だからおまえが連絡してくれて助かったよ」

     九井がにこりと笑う。胡散臭い笑み。

    「それってまたイヌピーが死んだら教えてくれってことか?」
    「ご明瞭」

     だから懇切丁寧に説明してくれたってわけか。
     つーかこいつ帰り支度してねぇか?

    「おい、イヌピーに会っていかねぇのかよ」
    「もう会ってるだろ」
    「イヌピーはおまえが来たことを知らねぇだろ」
    「イヌピーはなにも知らなくていいんだよ」

     対価はもうもらっている。病院と警察のことはどうにかすっから、心配しなくていいぜ、とさいごに言い残して、九井は去っていった。
     残されているのはオレと、すやすやと眠るイヌピーだけだ。

    「おまえ、とんでもねぇ奴に愛されてるな」

     イヌピーがそれを知るのは、九井が死んだ時だ。なんていうか、壮大な愛だな。どっと疲れが押し寄せてきた。きれいな顔をしたイヌピーはなにも知らぬまますやすやと眠っている。
     
     

     



      


     九井の生まれは秘匿された一族だった。万が一のとき、というものが、どういう時なのかを九井は知らないままに、そのルートから脱落した。なにせもう魂は使い果たした。厳しかった修行は無駄となり、今やただの一般人だ。「九井」を追放されながらも「九井」の名が許されているのは、ここでも金の力が大きく作用している。陰陽師とて生きていくためには金がかかるということだ。それともうひとつ。魂をかけた術は、成功することが極めて稀だ。人知の及ばぬ、おそらく運だとか、縁だとかいうものに、左右される。どれほど血統の優れた陰陽師といえど、手が届かぬ果てに、九井は到達してしまった。ゆえに羨望と嫌悪を同時に注がれている。まぁ、どうでもいいことだ。
     
     自分で言うのもなんだが、九井は優秀な子供であった。陰陽師としても将来を有望視されていた。だからこそ火事の中に飛び込んだ。オレならなんとかできるという傲慢な考えがあったわけだ。そこで見つけたのはふたつの遺体。乾赤音と乾青宗。対して九井の魂はひとつだけだ。助けられるのはひとりだけ。けれどそれも確実ではない。
     黄泉の道を駆けおりて、たったひとりの手を掴み、こちらの世界に引っ張り上げる。
     九井の一族は邪道の一派であったが、それでもなお躊躇うような非道の術。事の大きさに震えが生じる。しかし九井の目にはふたりの魂が行ってしまうのが見えていた。それ以上行ってはだめだ。一刻でも早くこちらに連れ戻さなければ。
     咄嗟に手を掴んだのは、弟の、青宗のほうだった。

     禁忌の術はおどろくほどうまくいった。乾青宗は蘇った。赤音さんを残していくのは苦痛だが、九井は不死ではない。ここで九井が死んでしまえば、せっかく助けた青宗もまた死んでしまう。それは避けなければならない。青宗を背負い、ゆっくりと階段を降りていく。九井の背に感じるあたたかい鼓動も脈も、浅い息づかいも、九井のそれを写しとっているだけだ。もしふたりの心臓の音を調べたら、呼吸のタイミングを調べたら、そっくり同じになっているだろう。成長さえも写し取るようになっている。同い年でよかった、と感謝さえした。
     今はもう何も見えなくなった目が最後に見たのは、がんじがらめになった青宗の魂だ。これでもうイヌピーはオレのもの。
     イヌピーがだれかをすきになったとしても、イヌピーがだれかとセックスをしたとしても、イヌピーが誰かと結婚したとしても、イヌピーの魂はオレのものだ。
     一方的な契約は九井の命を持って完了する。
     九井が死んだとき、青宗は二度目の死を迎えるのだ。

    「もうだいじょうぶだよ」

     家から脱出し背中かから降ろした青宗に、心にもない言葉をかける。ああ、イヌピーはちゃんと目を覚ますかな。喋れるかな。上手くできたという自信はあるけれど、呼吸しているだけの人形になってしまった可能性だってありうるのだ。青宗がのろのろと顔をあげる。

    「ココ、オレは赤音じゃねぇ」

     ああ、イヌピーだ。ちゃんとイヌピーとしての自我がある。ごめんなイヌピー。オレはおまえを不死の化け物にしてしまった。おまえとオレは死ぬまでいっしょだ。


     そんなことを言えるはずもないけれど。 





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