夏の思い出暑い日が続く夏の日。おトキは町で買い物をしていると、ある貼り紙が目に入った。
『花火大会 本日夕刻より』
もうそのような時期かとおトキはじっと貼り紙を見つめる。毎年夏が終わる頃に行われている花火大会。去年は1人で夜空を見上げ、花火の美しさに感動していたなとおトキは思い出し、ふと脳裏に想い人の姿がチラついた。
「…今回は…マサ様と一緒に見たいな…」
いつも忙しそうにしているマサトとは最近会っておらず、おトキは正直寂しく感じていた。だから夏の最後の思い出に一緒に見れたら最高の花火大会になるのに…
「おトキちゃんは、やっぱりマサト様と見るのかい」
じっと見ていたのが気になったのか、町の者が声をかけてきた。おトキは首を縦に振りたかったが、目を閉じ、ゆっくりと首を横に振る。
「マサ様は…お忙しい方なので、私は1人で…」
寂しさに泣きそうになるのを堪え、作り笑いを顔に貼りつけて返事をしようとしたところで、いきなりおトキは誰かに肩をグッと抱き寄せられた。
「おトキは俺と一緒に見るんだ。当然だろう。」
「」
驚いて顔を上げれば、そこには今想っていた人物、マサトがいた。おトキは嬉しさと驚きとでごちゃごちゃになり、何も言えずにいると、マサトに正面から抱きしめ直され、ギュッと抱きしめる腕に力がこもる。ただでさえ暑いのに、余計に身体が火照っていく。でもこれは全く嫌じゃない。
「やっと見つけたぞ。ずっと探していたんだお前のこと。家にいなくて焦った」
「ぁ…マサ様…」
確かにマサトは少し肩で息をしていて、そんなに探してくれていたのかとおトキは嬉しくなり、背に腕を回したくましい胸に埋めた顔を甘えるようにスリスリさせた。
思わず出たのかマサトから、愛らしい。と言葉が降ってきて、おトキはマサトを見ると少し赤くなって慌てて顔をそらされてしまった。そういうところはマサトも可愛いなとおトキは内心思った。マサトは咳払いをして気を取り直し、おトキを見据える。
「…おトキ。俺と一緒に花火を見よう。最高な場所を用意している。」
「…はい。マサ様…嬉しいです…私…」
そう言った瞬間、周りから拍手やら、おめでとうやら聞こえてきて、2人はここが外だったということを思い出した。町の者たちがいつの間にか集まってきていたようで、完全に2人の世界に入っていて気づかなかった。慌てて離れたマサトとおトキだが、しっかりと手は繋いだまま。
「お、お前たち見ているなど趣味が悪いぞ!…もう行くぞ、おトキ」
「は、はい…皆さんも花火楽しみましょうね」
マサトに手を引かれ、歩き出す。おトキは最後の夏の思い出をこれから愛している人と共に作れることを嬉しく思いながらギュッと繋いだ手に力を込めた。
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マサトが、最高な場所を用意している。と言っていたが、おトキがマサトに連れてこられた場所はマサトの屋敷だった。
確かにマサトの屋敷は大きい。花火を見る場所もあるのかもしれない。だが何度も訪れている屋敷でそんな場所はあっただろうかとおトキは考えていると、マサトの部屋に通された。見慣れたマサトの広い部屋。縁側からの景色はとても美しく、毎度来る度に夜は縁側で寄り添って夜空を見ていたな…とおトキが思ったところでハッとする。
「気付いたか俺の部屋から、花火が見れるんだ。」