晩年「師父…最近白いものが増えましたね」
「そうか?私もそんな年齢になったか…お前はいつまでも若々しく逞しいな」
眩しそうにレオンを見つめる。
「あなたは今でも美しいですよ…師父」
「ッ阿樑…」
「今でも俺をそう呼んでくれるんですね、嬉しいです…」
レオンが口付けようと顔を寄せると、葉問はふいと顔をそらして悲しそうに言う。
「お前に求められるような年齢ではないよ…髪は白く、体力も落ちた…」
「貴方はこんなに魅力的なのに、俺に求めるなと言うんですか? 酷い人ですね」
「私はお前に相応しくないんだ、阿樑」
「師父、俺が嫌いですか?」
「嫌い…?な筈がないだろう、私はこんなにもお前を…っ」
「俺を?」
「…お前を愛しているよ、阿樑。心から…」
「師父、俺も同じ気持ちです。これからもずっと、貴方のそばに居たい」
葉問の体をそっと抱き締め、耳元で囁く。
「貴方を愛しているんです、葉問」
「阿樑……」
「私がお前を愛する事は、許されるのだろうか…」
「誰に許しを乞うんです?」
「お前を置いて先に逝く私自身に…」
「たとえその日が来たとしても俺は後悔しません。するなら今、貴方の傍に居られない俺自身を俺は許せない」
「阿樑…気持ちは嬉しいが…」
「貴方が俺と同じ気持ちなら言ってください、傍に居ろと」
「っ…阿樑…、居てくれるのか…?私の傍に…」
「はい。終わりがくる、その瞬間まで…」
「そうか…」
葉問はレオンに緩く抱きつき、ほぅと息を吐いた。
「老人の介護は大変だぞ?」
くすりと笑って言う。
「望むところです」
「おや、もうこんな時間です師父。泊まらせていただいても…?」
「……好きにしなさい」
「はい」
その日を境にレオンは葉問の家に住み着くようになったという。