ビルによって日陰差す路地裏が、悪事の掃き溜めになったのはいつからか。地に伏す幾数十体の男たちを眺めながら、簓は胸ポケットから煙草を取り出した。フィルターを食み、ライターの火を灯す。燃え移った炎は男の肺へ煙を運び、数拍を置いた後、呼吸とともに煙は鋭く吐き出された。
「いやぁ、派手にやられたなぁ」
最後まで立っている、という意味では勝利。しかし手放しに喜べるとは言い難い、ほろ苦い勝ち星だ。
隣に座りこむ赤髪の青年は明らかに青あざやら擦り傷だらけで、全身の負傷が見て取れる。口の中も切れたのだろう、吐き捨てた唾には赤色が滲んでいた。
「テメェのラップが軽すぎんだよ」
不満たっぷりに青年が愚痴る。そりゃいつも組んでるキミの相棒と比べたらなぁ、と脳裏を過ぎる返答はそのまま胃の中へ飲みこんだ。細い瞳をいっそう緩めて「何言うてんねん、俺のフォローがなきゃお前もっと攻撃もろてたで!」とその赤髪を手加減なしに掻き撫でれば「痛ぇわ!」と手を弾かれる。しかし尖っていた唇が吊り上がっているところを見ると、この返しが正解。
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