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    のんびりしたナシュ赤。後半エロが後もうちょっとで書けそう。やまなしおちなしいみなし

    #ナシュ赤
    nashRed

    料理をするナッシュ 顔に似合わないと言うと本人は怒るかもしれないが、ナッシュは意外と料理好きだ。バスケのことや家のことや色々あるなか、時間が空いた日は大量の新鮮な食材を買ってきてキッチンに籠ることもあるほどに。
     早いうちに家から出て独り暮らしを始めた為に、必要に駆られて料理をするようになったらしいが、今では完全に趣味の範囲になっている。
     鼻唄混じりに器具を操り、出来上がれば上機嫌で皿に並べる。彼は特に凝ったものを作るのが好きで、先日食べた肉がとろとろになるまで煮込んだビーフシチューは、やれ最初は弱火で焼くのがコツだの、やれ赤ワインはどこの銘柄の酸味があるのが良いだの、食事をしながらペラペラと楽しそうに話していた。
     オレとしては、好きな相手が楽しく話すのを聞きながら美味しい食事を取れるのだから文句はない。食後の食器ぐらいは洗わせてもらうし、そんな少々の面倒ぐらいでは全く損なわれないものである。

     今日も彼は朝から車で出掛け、どこかで大量の食材を買って帰ると、鼻唄を歌いながら大きな冷蔵庫へ大半をしまい、残ったものを切り分け始めた。先ず夜の仕込みを終わらせてから、昼食を作ってくれるらしい。赤身の多い牛肉を大きなブロックに分けている。野菜も幾つか切ってビネガーに漬けている。
     彼が作るピクルスは絶品で、単品でも堪らなく美味しい。かつて振る舞われて、その美味しさに驚いて目を丸くしたときの、ナッシュの誇らしげな顔は忘れられない記憶だ。もっと食べたければまた来いよと誘われ、それから彼の家にお邪魔することが増えた。
     今日の昼は彼の好物であるシーフードピザを作るらしい。スーパーで売っていたエビもクラムもトマトも彼のお眼鏡に適ったようだ。小麦粉から捏ねて打ちつければ、ただの粉だったものが彼の手の中でまとまり伸ばされていく。
     ナッシュが『魔術師』と呼ばれるのはその優れたバスケの腕についてだが、こうして料理をする彼の手も魔術師のようで赤司は好きだ。ずっと見ていても飽きないほどに。
     けれどあからさまに見るのは少し気が引けて、大体ダイニングで本を読みながらキッチンの様子をうかがう。一冊や二冊読む程度ではまだまだ終わらないから、次の本に移る間に暫くゆっくり眺めたりする。
     生地を寝かせる間に具を用意し、サラダまで作って冷やしている。使い終わった器具はこうした間に洗ってしまうので、キッチンは綺麗なまま保たれている。流石の段取りと手際の良さだ。
     共に並んで料理するのも悪くはないが、赤司は料理に対してはほぼ素人なので、多くを説明させながらの作業となってしまう。彼は別に嫌ではなさそうだったが、楽しむ時間に割り込む必要もないかと、最近はこうしてのんびり彼のことを眺めるようになった。

     するりと首筋を撫でられて、赤司はパチパチと目を開いた。本に集中しているうちに作業はほとんど終わったらしい。低い電子音が聞こえるから、今はもうオーブンで焼いているところなのだろう。暇になったからちょっかいを出しに来たようだ。
     水を使った後の冷たい手が触れると、ぞくりと皮膚が粟立つ。本を置き、手を捕まえて頬に当てた。本を読んでいたうちにどこか現実から離れていた視界が、触れた冷たさに澄んでいく。すり寄れば頬を引っ掻いてくる指先は、大きな猫がじゃれてくるようだ。お前は猫のようだね、と言うたびに、その言葉お前にまるごと返してやるよ、と言われてしまうのだが。
     テーブルの隅に置いてあったハンドクリームを取って、その手に塗りつける。これは料理をするナッシュにと赤司が買ってきたものだ。余計な香りを嫌う彼の為にほとんど香りがしないものを選んで用意した。食事後、洗い物をした後に赤司がつけることもある。
     少し多目に出して、大きな手のひら、長い指、筋ばった甲、四角い爪の先まで丁寧に塗り広げた。指の付け根はマメのつぶれた痕があり、皮は厚く固く、爪は短く切り揃えられていて、そうした努力の痕を残すこの手を愛しいと思う。指の股まで絡ませ、皮膚を擦り合わせる。全体に塗り広げ終えると、今度はナッシュがクリームを赤司に塗り広げてくる。身長差を表すような大きさの違う手が、同じ温度に均されていく。最後にわざと擽るように動いた指を捕まえようとしたがぬるりとかわされ、ナッシュはクツクツと笑いながらまたキッチンに戻った。タイミングよくタイマーの切れる音がする。
     魚介とトマト、バジルの芳醇な香りが赤司の鼻をくすぐって空腹を呼び起こした。すぐにまた、あの少し頬を赤くした誇らしげな顔のナッシュが大きな皿を持ってやって来るだろう。本を退かし、テーブルのクロスを整えて食器を並べる。きっと美味しくて食べ過ぎてしまうだろうから、午後はバスケをしに行くのが良いかもしれない。既に準備が始まっている夕食も、運動をした後ならいっそう美味しくなる。
     今日一日赤司はたくさん幸せを味わい、笑うのだろう。これからそんな日々が幾度も訪れるのだろう。初めて会ったときは、こんな事になるとは思いもしなかった。にらみ合いぶつかり合い、それでも運命を手繰り寄せて二人はこうして共にいる。
     決して下品ではないが豪快にかぶりついたナッシュが僅かに頬を緩めるのに、いただきますと手を合わせた赤司もならう。とろけたチーズは猫舌の赤司には熱かったが、まるい幸せの味がした。



     腕まくりをしてスポンジを取り洗剤を垂らす。何度か軽く握るとくしゅくしゅと泡が生まれ、手を伝ってこぼれ落ちていく。
     ほとんどの器具はナッシュが洗いながら作業を進めてしまうが、どうしたって食べ終わりには多少の汚れた食器や鍋が残るものだ。赤司がそれを洗いたいと言ったとき、ナッシュは好きにしろと返した。
     ナッシュも赤司も、そういった細々としたものを放置せずにこなしておくのは得意だ。だからその好きにしろは、言葉以上の意味はないのだろう。それでもナッシュが作った食事の片付けをすることで、少しでもその行為に関わった気分になれるので、赤司は好きにやらせてもらっている。自己満足だ。
     赤司が手を泡だらけにしている間、ナッシュはダイニングでタブレットや雑誌を読んでいる。まるで食事前の二人の位置が逆になったようで面白い。真剣に文章を読む横顔、時々なにか気に入ったのか口笛を吹いて笑ったり、顔をしかめて舌打ちをしたりもする。
     元々仕事を詰め込むのが当たり前の生活をしていた。中学の頃は休憩時間にも用事を詰めすぎて、何処にいるのか探すだけでも大変だと言われたこともある。今もそれは同じで予定がない日は一年のうちでもほぼない。ナッシュも同じだ。上昇志向が高く仕事にも楽しみや喜びを見出す自分達は、一人でも充分生きていける。
     けれど、パートナーと共に過ごすことがこんなにも息抜きになるとは思わなかった。やるべきことが多すぎる二人なので、休みに会うというよりは、お互いと過ごす時間を予定に組み込むようになった。
     今日もそうして二人で合わせた休みだった。昨日インドでの仕事を終えた赤司は、日本に戻る前にアメリカに飛んでこの部屋に来た。寄り道というには大回りすぎるこの距離。合鍵を使って真夜中にベッドに潜り込んだ赤司を、寝惚けながらナッシュが引き寄せる。筋肉量が多くて体温が高いナッシュに包まれると、安心して眠れる気がする。目覚めた時にはもう日は高くて、ロードワーク後のストレッチをしているナッシュを横目に、彼が用意した軽い朝食を食べ、買い出しに付き合ったのだった。
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