枯氏は寿司屋〜てやんでいに抱かれて〜枯氏は寿司屋〜てやんでいに抱かれて〜
私は女子高生のマイ!
帝丹高校に通う花の17歳!!
昨日ソーシャルゲーム用の石を集めてたら夜更かししちゃって寝坊しちゃったの!!今は朝ごはんの食パンを齧りながら、高校までの道を走っているの!!
「遅刻遅刻〜!!」
曲がり道に差し掛かり、確認せずに右へ曲がると、そこには黒光した高そうな車から降りてきた枯れた出っ歯とぶつかっちゃった!
「きゃあ!!」
「てやんでい!!」
ぶつかった弾みで後ろによろけて、そのまま大きな尻餅をついしまったわ
「いてて…」
「べ、べらぼうめ…」
口に咥えてた食パンは道端に落ちていて、もう食べられない。ううん、これは私の不注意だったんだから仕方がない…
お尻をさすりながら立ち上がると、おでこに激痛が走った。そこを人差し指で触ると、なにか硬いものが刺さっていた
「あ!学校!!」
おでこに刺さったものがなにか確認してる暇なんてない!早く行かないと遅刻しちゃう!!
「ご、ごめんなさい!」
マイは枯れた寿司屋にお辞儀をすると、学校までの道を走り出した…
教室には、出席ギリギリに滑り込み、なんとか遅刻は免れた。だが周りの人からの視線を浴びた。パンツが丸見えだと思ったら、パンツはスカートの中に収まっている。なぜ、こんなにもみんなの視線を集めるのか…。マイは不思議でたまらなかったし、見られることで高揚と興奮を感じていた
朝礼が終わると、マイの親友の葉月と泊がマイに近づいた
「ちょっとマイ!どうしたの?!」
「おでこに歯が刺さってる!!」
「ええ?!」
そういえばさっき枯れた出っ歯とぶつかった時、なにかがおでこに刺さったままだった…
マイは葉月に鏡を借りると、自分の顔を見て確認した。マイのおでこには、綺麗な白い二枚の着け歯が刺さっていた…
「な、な、なにこれ〜??!!」
も、もしかして今朝ぶつかった枯れた出っ歯の差し歯?で、でもこれ前歯よね?えーやだーきもーい!!
マイは着け歯を抜こうとしたが、歯はびくともしない。
「う、嘘でしょ?!」
結局歯はおでこから抜けず、マイはそのまま過ごした。徐々に着け歯に愛着が湧くもので、このままでもいいかな?そう思えてきた…
放課後、葉月と泊に誘われて、高校の近くにある、喫茶ポアロに行くことにした。そこには話題の超絶イケメン店員がいると、クラスで話題なのだ
「ポアロの店の上には、あの毛利小五郎が住んでるのよ!」
「葉月ってほんと毛利小五郎推しよね〜」
そんな話をしながらポアロの中に入るも、店の中はお客さんでいっぱいだった
「ごめんなさい、今満席なんです」と感じの良い可愛らしい女性店員さんに言われて、店を出た
「どうする?マックかファミレスでも行く?」
そんな相談をしていると、マイはその場が見覚えがある事を思い出した
あ…、ここ、今朝、枯れた出っ歯にぶつかった所だわ…
「あ、ここに江戸前寿司がある!ここで特上寿司か甘味でも食べよう!!」
そう提案されて、ポアロの隣にあるいろは寿司に入ると、席の案内にひとりの店員がやってきた
あれ、この人、どこかで…
口元が寂しいからすぐに気がつかなかったか、今朝ぶつかった男だとわかった
「あ、あんたは?!」
「あっしの出っ歯!!」
すると寿司屋の男はマイに近づきおでこに刺さった歯に触れる。触れた指先が熱くて、心臓が跳ね上がる
「返してもらうでやんす」
「ま、待って!ぬ、抜けないのよ!痛くしないで…!!」
「大丈夫。あっしを信じるでやんす…」
「え…」
ドキドキが止まらない。違う、これは知らない枯れたおっさんに触られてるからであって…
寿司屋は寿司を握るような力強くて滑らかな手つきで、マイのおでこからいとも簡単に着け歯を抜いた。マイのおでこから歯を抜いたショックで多量の出血が起こるのではないかと思っていたが、寿司屋は開いた傷口に清潔なハンカチを置き、見事に止血をした
「さすが脇田さんだ…!フリーランスの流れ者の寿司屋として、日本だけでなく、世界を股にかけ、魚類だけでなく人体までに精通していると言う噂は本当だったのか…!」
「ふ…。あっし、失敗しないんで…」
わ、脇田…さん…
マイは胸の動悸がおさまらなかった
出血と止血による脈の上昇か。もしくは…
「あ、あの…!下の名前は…?」
「ふ、名乗る程のもんでもないですぜい…。てやんでい…」
その後、着け歯が迷惑をかけたお詫びにと、脇田の奢りで特上寿司をご馳走になるも、マイは大トロを味わうことなどできなかった…
違う…
これは恋なんかじゃない…
私、枯れ専じゃないもの…!!