Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ぬのさと

    @nunosato
    魔道祖師/陳情令の双聶(明懐)が好きです。

    転載禁止
    DO NOT REPOST.

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💚 🍵 🐢 🏮
    POIPOI 23

    ぬのさと

    ☆quiet follow

    冬至のお話。

    #双聶
    doubleNie

    一陽来復 一年でいちばん昼が短い冬至の日だけあって、あっというまに陽は傾き、薄闇の帳が下りるとともに冷え込みが厳しくなってきた。明るく輝く歳星を一番星とし、星々がまたたきはじめている。
    「聶の二の若君は、こちらでしたか」
     夜目にも白い校服をまとった藍氏の修士が声をかけた。
    「夕餉の刻限につき、お戻りくださいませ」
    「ありがとう、わかりました」
     聶懐桑は星辰を観察した書きつけを片づけ、立ち上がった。ここは厳格で知られる藍氏の仙府、雲深不知処。我が道を行く聶懐桑といえども、聶氏の本拠地である不浄世にいるときのように自由気ままにはふるまえない。
     懐桑の吐く息が白くなった。濃い青紫の空に、黒く建物の陰が浮かんでいた。
    「今日は冬至なので、夕餉は湯圓でございます」
     懐桑は見慣れない料理に目を丸くした。白く丸い団子のようなものが、湯にいくつも浮いている。
     姑蘇では冬至の祝いに、餅米の粉を丸めて作る湯圓を食べるのだと、藍家のものたちがとまどう懐桑に教えてくれた。餡が胡麻と小豆で甘い甜湯圓と、餡が肉で塩辛い鹹湯圓があり、どちらのほうがおいしいかで揉めることすらあるそうだ。
     食事中は沈黙が続く藍氏の食卓でも、湯圓を前にしてなごやかな空気が流れていた。
    「へえ、うちのあたりでは冬至に餃子を食べますよ。やっぱり家によって具や味つけが違っていて、冬至はみんなで集まってわいわいやりながら餃子を包んで……」
     懐桑のふるさと清河でも、冬至には親族が集まって皆で食事をする。南方の姑蘇の湯圓が北方の清河では餃子になり、夕食のためにひたすら大量の餃子を厨房で包むのが恒例行事であった。
     見栄えのする変わった包み方をしようとして懐桑が餃子の皮を破ると、横で昔ながらの基本的な包み方をしていた聶明玦が、ため息をつきながら懐桑の失敗作を引き取って包み直した。向かいでは聶宗輝がおそろしく正確に手早く餃子を包んでいる。別の調理台では聶氏の弟子たちが餃子の山を作り、どんどん大鍋にほうりこんで料理をしていた。
     餃子を茹でる湯気の匂い、騒がしく笑う門弟たちの声、魔法のような手際のよさを発揮する宗輝の指の動き。まじめくさった顔で黙々と餃子を包む兄の横顔を見上げていると、必ず懐桑の視線に気づいて、明玦は見下ろす鋭い目をなごませた。
     射日の征と名づけられた温氏との戦いは激しく、清河にほど近い河間が主戦場となったため、懐桑はひとり、雲深不知処へと避難させられていた。雲深不知処とて、温氏に焼き討ちされた痛手からまだ立ち直ってはいない。焼け落ちた建物から焼けぼっくいのような柱が夜空へ突き立ち、夜間の灯りはとぼしく、外は真っ暗な闇が広がっていた。
     ともに餃子を包んで冬至を祝った彼らも、今日ばかりは北の地で餃子を食べているだろうか。
     冬至は一年でいちばん昼が短く、陰の気が極まったのち、冬至を境として陽の気が増えていく。禍事が去り、吉事があらんことを、懐桑はひそかに祈った。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺💚
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works