三尊の一日店長 ぴよぴよぴよぴよ……
ひよこの鳴き声がうるさい。ぽわぽわした黄色い柔毛や鳴き声に癒されるのは最初だけで、勝手なところで糞をしないか、商品をつつかないか、心配でたまらない。
「兄上、懐桑の鳥はせめて鳥籠に入れさせて――」
「……お前は応援団長だろう。しっかり応援するんだぞ」
いかめしい表情で弟の身だしなみを指差しチェックする兄上だが、どう見ても自分の一日店長としての仕事がなにかわかっているとは思えない。私たち三尊で一日店長を勤めるのは二回目だというのに。そもそも、この仮の職場へ懐桑を連れてくること自体も二回目で、兄上はいったいなにを考えていらっしゃるのか。
まあ、このふたりはこれがいつものことだから、なにも考えていないのだろう。
自分もお仕着せの前掛けを身につけ、はりきった懐桑は――なにもしなかった。キラキラした目で兄上のそばに寄り添って、兄上の応援はしているようだ。兄上、営業スマイルまでは求めないから、お客さまのほうは向いてください。弟ばかり見つめずに!
「おや、いらっしゃい」
兄さまのよく響くいい声に思わず聞き惚れるのは、なにも私だけではない。兄さまがいらっしゃるレジに並ぶお客さまもうっとりと――って、兄さま、行列をさばくの遅っ! うやうやしくカルトンにのせた金銭を受け渡しする手つきは舞のように優雅で、ゆったりと、とにかく遅い。
結果、会計待ちでレジ前に並ぶ行列は、私が笑顔の影で必死にさばいてもなかなか進まなかった。一日店長の趣旨からははずれるが、お客さまをあまりお待たせするのは得策ではない。私は本来の店員たちへ助けを求めた。
《レジ応援お願いします》
音楽が一時中断し、店内放送が流れた。それを聞いた懐桑がキリッと顔を上げた。彼など猫の手程度しか役に立たないだろうが、役に立とうとしてくれる気持ちが嬉しい。
「大哥、がんばれ♡ がんばれ♡」
ちがう、そうじゃねえよ。ひらひらと愛用の扇子を振りながら兄上(だけ)を応援する懐桑に、私の地元・雲夢の訛りである柄の悪い悪罵が喉元まで出かけた。それに応援もなにも、兄上は今のところ、ろくに仕事をしていない。
額に青筋が立っているのを意識しながら、笑顔で声を張り上げた。
「いらっしゃいませ、お次の方、こちらのレジへどうぞー!」