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    ぬのさと

    @nunosato
    魔道祖師/陳情令の双聶(明懐)が好きです。

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    ぬのさと

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    甘さ少なめ双聶。でも同衾はしています。再掲。

    #双聶
    doubleNie

    有明の月 窓を開けると、冬の早朝のまぶしい光がさしこんできた。青い空に白い三日月が見える。
     いつもは聶懐桑が寝汚く布団にくるまって起きようとしないのを、厳格な宗主と世評に名高いその兄が叩き起こす。それはもう、容赦なく布団をひっぺがす。
     今朝はどういうわけか、いつもとは逆に懐桑が先に起き、寝ている聶明玦を見下ろしていた。珍しいこともあるものだと、懐桑はこの機会に明玦をじっくりと観察した。ずり落ちかけていた薄い寝衣の肩を引き上げ、寝台の端に腰かけてのぞきこむ。体重をかけられた寝台がかすかにきしんだ。
     明玦は懐桑の血をわけた兄だが、懐桑とは全然、似ているところがない。聶氏の修士を率いて大刀をふるう長身は逞しく、力と自信に満ちあふれていた。
     一方、弟である懐桑は小柄で痩せっぽち。仙門世家の一員としては能力が半人前で、夜狩に行くよりも絵を描いて優雅に遊び暮らしていたいと、明玦とは正反対だった。
     明玦は長身を広い寝台に横たえて、よく眠っていた。懐桑のように布団を抱きかかえて寝台の上をゴロゴロ移動しまくったり、呆れられるような寝相の悪さを披露したりはしていない。
     起きているときは常に眉間にくっきりと刻まれている深い縦皺が、持ち主が眠っていると開かれていた。懐桑は赤い筋になっている縦皺の痕跡に触れ、指先でそっとさすった。
    「う…………」
     光がまぶしいのか、触られたのに反応したのか、明玦が小さくうなって顔をそむけた。
     懐桑は思わず息をつめて身をかたくしたが、明玦はそのまま起きなかった。ゆうべはよほど疲れたのだろう。
     眠る兄の横顔を、懐桑は飽かずながめていた。叱責におびえずじっと見つめれば、意外なまでに彼の鼻梁が細く高いことに気がついた。
     日にやけてきめの粗い肌に、寝乱れた黒髪がかかっていた。日中は細い三つ編みを幾本も編んで後ろでまとめているが、寝所ではほどいている。結い上げた髷にひっぱられているため、実際よりもつりあがって権高に見える目は、いまは穏やかに目蓋がおりていた。
     視線を動かすと、浮き出た顎の骨にそうように無精髭がのびかけていた。懐桑が自分の顔のおなじ箇所を触ってみても、なめらかな肌はつるりとして、髭などなかった。
    「……大哥、まだ寝ている?」
     規則正しい呼吸に変化はない。明玦が眠っているのを確認しながら、そっと細い指をすべらせた。毛の生えている向きと逆さまに手を動かすと、まばらに生えた短く太い髭がチクチクとして、痛い。ザラザラと、まるで猫に舐められたときにも似た感触の痛さだった。
     懐桑は衝動的に髭の頰に自分の頰をよせ、すりつけた。痛い。皮膚の下に熱い血が流れている。首の太い血管が脈打っている。顎の下の皮膚がやわらかいところへ鼻をおしあてるようにして、兄の慕わしいにおいを胸いっぱいに吸いこんだ。
    「なにをしているんだ、懐桑」
     ふいに、懐桑は後ろの襟首をつままれて引き剝がされた。懐桑とおなじだがやや濃い榛色の瞳がふしぎそうに見つめていた。
    「大哥、髭が痛いよ。ジョリジョリする」
    「そうか、昨日は髭を剃っていなかったからな」
     顎をなでさすり、明玦はあくびをした。筋肉質なからだの動きが、しなやかで獰猛な獣めいている。はだけた寝衣の合わせから太い腕をつっこみ、胴をボリボリとかきながら、
    「湯を持ってこさせて、髭を剃ろう。――その前に懐桑、からだが冷えきっているではないか、上着を着なさい」
    「やだ。大哥にくっつく」
     頭ごなしに怒られるのかと思いきや、明玦は優しく懐桑の髪をなでた。
    「それなら、大哥のお布団におはいり」
    「え、いいの?」
    「そのままでは寒いだろう」
     明玦はばさりと懐桑の頭からあたたかい布団をかけ、手早く全身をくるんだ。兄の布団にくるまれた懐桑は、ぬくぬくと冷たい手足をあたためつつ、ドギマギしていた。
     刀霊の影響を受けて短気で怒りっぽくなり、ときには弟を手ひどく扱うこともある明玦が穏やかだった。子犬のようにじゃれあいながら屈託なく笑っていた、かつての幼い日々のように。
     この空気を壊さぬよう、息をひそめたまま、懐桑は明玦の腕を布団ごとかきいだいて見上げた。明玦はとまどったようにまばたきをして、懐桑を見下ろした。
    「いや――ああ、もう起きねばならん時間か」
     明玦はくびを左右にふり、かすれた声で低く云った。乱れた髪を手で後ろへかきやり、身なりを整えるにつれて、あまやかな追憶の残滓は消え去り、峻厳な聶氏宗主の姿が立ち上がる。
    「どうした、懐桑、早く起きないか」
     明玦は黒々とした太い眉をひそめ、寝床で小さくなる懐桑を険しく見やった。
    「だって寒いんだよ、大哥」
     こたえる声はかぼそく、頼りなかった。
     いらいらと舌打ちしたげな表情をした明玦は、だが、無理やりに布団を剝ぎはしなかった。
    「火鉢の炭を増やさせるから、そうしたら着替えるんだぞ」
     着替えたら校場で刀術の修練だと厳しく云い置いて、明玦は大股に房間を出て行った。
    「……大哥」
     懐桑はきつく布団にくるまり直した。寝台に残っていたぬくもりが失せていく。
     空に残る白い月は寒々としていた。

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