あなたに風邪を引かれたくないの!わたしたち、ライジングボルテッカーズはまた夜に行われているとある人たちの行動により、食材を調達するために、街へと降りた。いつものようにジャンケンして、自分たちの役割を決める。今回はロイも勝てたようで黒いレックウザの情報をいち早く欲しい彼からの「代わって」という申し出がなかった。そして、わたしもわたしで好きな配信者の生ライブがないため、落ち着いて街へと出歩くことができる。
モリーがロイとフリードに、「前みたいに餌を出されても買うの話だからな」と指摘されている。もしかしたら、前にロイが磨けばきれいになる布なのかな。
「ロイは私ときてよね」
「はーい!」
指摘された後、モリーによってロイはモリーと行動をすることが決まった。手綱を握ろうということだろうな。こどもだから一緒にいたほうがいいというのもあるのかも。
「じゃあ、リコはオレとだな」
「うん」
にっと口角を上げて笑みを見せるフリードに太陽がよく似合うなぁと目を細めた。
「リコ、ちゃんとフリードを止めてよね」
「んなカモにならないって」
「前科があるから信用できないだろ」
「うわ…」
モリーに言われたから、頷こうとすると苦笑しながら否定するフリード。彼が否定したのにも関わらず、同じ同性なのに彼を守らずマードックはモリー側で、彼女に続けるように否定する。ここにオリオがいたらきっとモリーと一緒に睨まれてただろう。「お前もだぞ」という意味合いで。
「フリード、リコ!黒いレックウザの情報掴んだら教えてね!」
「うん!」
「ちゃんと教えるさ」
「じゃあ、またあとで!」と、大きく手を振りながらモリーと一緒に歩くロイに同じように手を振る。二人の姿が遠くなり、ロイがモリーに言われたのだろう。くるりと前を向くために背中を見せて歩き出すから、手を振るのをやめた。すると、わたしの隣で腰に手を当ててるフリードに、「じゃあ、行ってみるか」と促された。
「きょ、今日は寄り道しないからね!」
「調査するには寄り道も必要だからなぁ」
「うまく、手綱を握ってくれよ?」とウインクを飛ばされた。モリーに言われたからか、分からない。でも、わたしにも、そんなことはないと否定すればいいのに、逆に言われてしまうと、手のひらで転がれそうだ。手綱をうまく握ることは出来ないでしょ。
「ニャオハ…わたし、できると思う?」
ニャオハを抱きしめて問い掛ければ、呆れたようにひと鳴きされた。相棒にも出来ないんだと思われてる。頭上でくすくすと笑い声が聞こえてきたから、睨めば、「わるいわるい」と全くもって思ってもない上辺の言葉を掛けられた。
⭐︎
「おっ、これ美味いな」
「ううっ、美味しいけど…っ」
なんで、食べ歩きツアーになって…??
「リコ、そろそろ小腹が空いてきただろうから、なんか食べないか?」
「たしかに。そろそろおやつの時間から、マードックのおやつを食べてる時間だもんね」
マードックが決まった時間にご飯やおやつ等を作って出してくれるから、自然とお腹にタイマーがついた。彼が作るものは美味しい。好き嫌いも特にないから尚のこと。いや、嫌いなものがあっても、彼の腕がすごいから、食べてるだろう。
まぁ、そのタイマーはもうみんなについていて、さらに言えば、成長期のロイと同じように彼はよく食べる方。わたしがライジングボルテッカーズの一員とはいえ、彼らの任務として、まだ護衛対象だった頃も、パルデア地方について家に帰る前に食べ歩きをしたのを思い出す。
「リコ、モリーたちには内緒だからな?」
「分かってます!」
「そっちの一口」
「はい!」
「ん〜、うま…っ。ありがとう、リコ」
「どういたしまし…っ!!」
フリードに結局、振り回されてる!やけになって、フリードに向けたクレープ。流れ作業のように、フリードがわたしのクレープを大口あけて食べたのを見てから気づいた。
「リコ?」
「な、んでも…ない…」
「ふうん? ああ、オレのも食べるか?」
「いらないっ」
「…美味いのになぁ、後で食べたかったなんて言っても知らないからな」
「言わないから!」
クレープを差し出されたけども、否定して、自分のクレープを頬張る。彼の食べた場所に歯跡が残っていて、口の大きさを確認してしまった。
それを彼が横目で見ながら、クレープを平らげてるのをしらない。内心でほくそ笑んでるのも。
(ああ、かわいいったらありゃしない。口が大きいとか小さいとか思ってるんだろうなぁ。間接キスとかも)
「…お?」
「…あ、」
クレープを食べ終わり、包み紙をゴミ箱に入れるため、ゴミ箱を探しながらも、黒いレックウザの情報を得ようとしていたら、視界に雫が降ってきたのが見えた。それはフリードも見えたようで、「リコ」と呼ばれる。雨だとわかれば、傘を持っていないわたしたちは先を急ぐ。ニャオハも濡れないようにモンスターボールに入れて。
屋根のある建物の前まで走ると、まだ本降りになる前とはいえ、前髪が水を含んで彼の顔に張り付いていた。視界を遮っていて手で横に流す彼に、見てはいけない物を見てしまった感覚になる。さっと彼から視線を逸らして、自分もピンを外して、前髪を整える。
「これは、やばいな」
「船に戻る?」
「ああ。情報収集は今日は止めにする。しばらくは降ると思うからな。リコはこれを着てろ」
「!」
彼は自分が羽織っているフライトジャケットを脱ぐと、わたしの肩にかけた。わたしだって上着を着ているから、彼が自分で着ていた方がいいのに。
けれど、そんな風に風邪の心配をするより、フリードの匂いがふんわりと鼻をくすぐり、ドキドキしてしまうし、腕を通すまでは彼は動かないだろうと腕を通せば、丈の大きさを感じてしまう。
「肩が落ちるかもしれないが、ちゃんと着てろよ」
「う、うん…」
フリードは、リザードンをボールから出して、さっとリザードンの背中に乗る。わたしは、わたしのことを何度も抱えてるからか慣れたリザードンがわたしを抱える体勢をとってくれた。「おねがいします」とリザードンに挨拶をすれば、こくりと頷かれて目を細められる。わたしを抱えたあと、フリードさんは「ブレイブアサギ号まで」と指示を出し、ブレイブアサギ号までリザードンは羽を広げて羽ばたいた。
船につけば、「ありがとう、リザードン」とお礼を言うフリードに続けて、わたしもお礼を言う。日を小さく吐きながら、鳴くリザードンに「どういたしまして」と言われたような気がして、嬉しくなる。
「早く入って風呂を沸かそう。先にリコが入ってくれ。他の奴らも雨に濡れて戻ってくるだろうから」
そんな…。
ぎゅっと私が着ている彼の衣服を握る。彼の方が濡れている。私の髪は濡れているけども、インナーだけの彼に言われたくない。
「えっ、いいよ。フリードが入って」
「風邪を引かせるわけにはいかないから、リコが入ってくれ」
それなら、私だってそう。さっさと先を急ぐ彼の手を握った。ぴたりと止まる彼の足。急な静止に私は止まることはできずに彼の背中にぶつかった。
「ぎゃ…っ」
「…わ、わるい、リコ」
あ、今のは本当に悪いと思ってるやつだ。
ぶつかってわかる。触れてわかる彼の体温に、やっぱりと心配になっていく。
「フリードが先入って!」
「えっ!?」
「わたしは、フリードがジャケットを着せてくれたけども、フリードはその…インナーだけでしょ!」
「そうだけど…でも、リコだって濡れて…」
「〜っ、だから…!」
困惑している姿でも、それでも、わたしに風邪を引かせたくないという気持ちはわかる。でも、だからこそ、わたしだって…
「り、リコ…!?」
わたしは大きい彼を前から抱きしめる。恥ずかしいけど、恥ずかしがってられない。手を握るよりはわかる。体温が下がっていた。
「体が冷たくなってるから、早く入って!」
「〜ッ」
「わたしのことを風邪引かせたくないっての分かる…けど!わたしだって、フリードに風邪をひいてもらいたくないの!」
バッと抱きしめた手を離して、わたしはフリードから逃げるように船内を走った。向かう先は風呂場。
ああ、洗濯物も仕舞わなきゃいけない。これはもう洗い直しだ。もったいないことだけど、仕方ない。聞こえてるかわからないけども、大声を出した。
「早くお風呂の用意をしてよね!!」
END
(…で?リコさん、今のお気持ちは?)(……ううっ、こんなはずじゃなかったのに…)(大人しく看病されてクダサイ)(かっこわるい…)(いや、かっこよかっただろ)