【ずあきの子供とアーサー】
北の国を訪れたのはいったいいつぶりだろうか。
アーサーはそのひんやりとした空気に身震いしながら雪の草原に降り立った。目の前に広がる大きな城。そちらに一歩踏み出せば、固く閉ざされた城門がゆっくりと人知れず開いていく。まるでアーサーを迎え入れるかのような動きで、アーサーはそれを嬉しく思いながら足を進めた。
アーサーは迷うことなく城の中へと入っていく。大広間がある方から人の気配と暖かな空気が流れてくる。きっとこちらだ、とアーサーは小走りでかけていく。
「オズ様、お久しぶりでっ……!」
待ちきれずにそう声をかけながら大広間に顔を覗かせた瞬間、腰の辺りに衝撃を感じる。アーサーがそっと視線を落とせば、そこにはブラウンの髪を長く垂らした少年が瞳を輝かせながらアーサーを見上げていた。
「アーサー、いらっしゃい!」
「久しぶりだな!」
この城に暮らす幼い少年。アーサーにとっては弟のような存在で、少年もアーサーのことは兄のように慕っていた。
「オズ様や賢者様はどちらに?」
「父様と母様ならすぐに来るよ。アーサーが来るから、お菓子を用意してるんだって!」
「そうか!」
アーサーは少年の頭を撫でた。その父親似の赤い瞳を嬉しそうに細めて、アーサーの手の温もりを堪能する。
「アーサー」
「……! オズ様、賢者様、お久しぶりです!」
ふと顔をあげれば、懐かしい顔がそこにある。少年がオズに駆け寄った。グイグイと無遠慮に父の手を引っ張って、アーサーの元へと連れてくる。
「父様も母様もアーサーに会えるの楽しみにしてたんだよ!」
「本当ですか、オズ様!」
「……そのようなことは、」
「オズ、久しぶりに会えたんですから」
後から息子たちを追いかけてきた晶がオズの背中を優しく撫でる。アーサーたちの熱い視線を受けて、オズはため息をついた。
「…………息災だったか」
「はい!」
長い沈黙の後に続けられた言葉にアーサーは元気に頷いた。そんな彼らのやりとりをキラキラとした瞳で見ていた少年は笑みをうかべた。嬉しそうな様子の少年に、アーサーもまた笑みがこぼれる。
「お前は、顔つきがオズ様に似ているけれど賢者様にも似ているな。笑った顔がそっくりだ」
「……?」
アーサーの言葉を理解できなかった幼い少年は首を傾げる。さらり、と長い髪が垂れた。
「……髪が、」
邪魔そうだ。オズが少年の髪に触れようとすると少年はぱっと顔色を変えた。自分の髪の毛を抑えて父親を睨む。
「母様とお揃いがいい!」
結ぶな。そう強く訴える少年にオズはポカンとした。そんな父子のやりとりに、アーサーと晶は思わず吹き出した。