拝啓、父様母様
こうして手紙を書くのは初めてですね。とりあえず初めと終わりに拝啓と敬具ってつけておけばそれっぽくなるとカインのおじ様から聞きました。これであってるでしょうか?
さて、俺が中央の国に来て一週間になります。アーサー様の紹介で入学したこの学校と言うものは面白いですね。同じ年頃の少年少女が同じ場所に集まって勉強するんです。北の国じゃ到底考えられないことで、びっくりしました。
初めて同い年の人と会話したので、はじめは上手く話せませんでした。でも安心してください。今じゃ友達というものができました! この間はそいつと一緒にロブスターを食べました。こんな大きいの北の国じゃなかなか手に入らないといった話をしたら驚かれました。わざわざ北の国から俺の通ってる学校にくるやつはいないんですって。確かにアーサー様に言われなかったら学校に通うこともなかったでしょうし、カインのおじ様の家にお世話になることもなかったでしょう。不思議な縁ですね。これも父様が世界最強の魔法使いで、母様が賢者だったからでしょう。素敵な両親に恵まれて俺は幸せです。
今後の秋休みには、アーサー様と一緒に北の国に帰ります。たくさん中央の国のお土産を持って帰るので楽しみにしていてください。母様の好きそうなお菓子もたくさん買っていきます。待っててね。
追伸、父様は拗ねた時に雷を鳴らす癖を治しましたか? 母様に迷惑をかけてはいけませんよ。あ、敬具忘れてた。敬具!
丁寧に綴られた手紙を読み終わって、オズは深いため息をついた。
「……手紙の書き方を教えなかったな」
全く、と言わんばかりの彼の横顔はどこか穏やかで。そんな彼をそっと見つめながら、晶は微笑んだ。
「必要なかったですからね。……オズは手紙書けるんですか?」
晶の静かな問いかけにオズは何も答えなかった。世界最強の魔法使いと呼ばれるオズが手紙を書く機会はあったのだろうか。完全に黙り込んだ彼に、晶は手を叩いた。
「この手紙の返事、オズが書いてください」
「……お前が書いたほうがあれも喜ぶ。あれはお前に懐いているから」
「あまり言わないだけで、あの子はオズのことも好きですよ。きっとオズが返事を出したら喜ぶと思います」
「呼んで話をしたほうが早い」
「魔法を使うのはずるいですよ」
晶にじっと見つめられる。その意思の強いチョコレート色の瞳に、オズは降参した。魔法で棚の引き出しからレターセットを取り出す。藍白のシンプルで品のあるものだった。用意した覚えのないそれに晶は目を瞬かせてから、ふふ、と笑う。
「何がおかしい?」
「いいえ、なんでも」
オズはペンを握る。いざ、便箋に向き合って、困ったように動きを止めた。そんな彼を見て、晶は首を傾げた。
「オズ?」
「…………何を書いたらいいのかがわからない」
弱々しく告げられた言葉に、晶は数回瞬きをしてから、彼に寄り添った。
「なら、一緒に文面を考えましょう。大丈夫、オズならきっとできます」
そんな妻の言葉にオズは困惑しながらも、ぎゅっとペンを握りしめた。