ヒース縁談春の暖かな日差しの中咲き誇る花のような、美しくやわらかい顔を曇らせているのはブランシェット家の子息・ヒースクリフだった。
周りに心配をかけたくない。そう考えたヒースクリフは悩みを隠しいつものように振舞ったが存外彼は表情に出やすいタイプだったようで。
彼の師であるファウストや彼とある程度親しいネロはすぐに彼の様子がおかしいことに気がついた。
またシノと喧嘩でもしたのか?そう二人は予測するも、シノの様子は変わらない。いや、ヒースクリフの様子がおかしいことに気がついていて何もしないという点ではおかしいのかもしれない。
普段ならしつこいぐらいにヒースクリフに聞くだろう。ならば、何故?
「なんだろうなぁ、喧嘩じゃなさそうだけど」
「考えこんでいても仕方ない、聞こう」
二人の元へ真っ直ぐ向かうファウストにネロはぎょっとしつつも彼の後ろを慌てて追いかけた。
「ああ、ヒースに縁談が来たんだ」
言いにくそうにしているヒースクリフの隣でシノは何事も無かったかのようにさらりと答えた。まるで「ちょっと卵買いに市場行ってくる」ぐらいの軽さに、ファウストとネロは言葉を失った。同時にヒースクリフもまた言葉を失う。
「お前、なんで言うんだよ」
怒りか羞恥なのか頬を赤く染めながらシノを睨みつける。そんな視線を受け止めながらもシノは首を傾げた。
「本当のことだろ?」
「だからってお前な……!」
ヒースクリフとシノが口論になりそうな雰囲気を察したのか、ネロが間に入っていく。それにつられるようにファウストもまた二人に話しかけた。
「落ち着きなさい、二人とも」
そんな言葉にヒースクリフは申し訳なさそうにし、それとは対照的にシノが首を傾げた。
「俺は落ち着いてる」
「シノ……」
ヒースクリフが呆れたようにシノを見つめる。そんな彼らを見てネロが苦笑いをうかべた。相変わらずこの二人は変わらない。
そのまま彼はチラリとヒースクリフの横顔を伺った。いつものようなやりとりを交わしてはいるが、彼の表情に影が落ちているのは明らかだった。
ヒースクリフの性格を考えると縁談に乗り気ではないのだろう。とはいえ、彼はブランシェット家の子息。避けられないことだと本人もわかっているのだろう。
ファウストもおおよそ同じことを推測していた。
避けられない話とはいえ、乗り気でない縁談話。それにヒースクリフは気を落としているのだろう。
かといってネロやファウストが口を出すような話でもない。
「ヒース、初恋引きずってるもんな」
「シノ!!」
シノの爆弾発言に場が混沌とした。