いちご一粒でできる魔法2「えー、と、ここが更衣室……」
「ふむふむ、なるほどであります」
めっちゃいいにおいする。
なぜか転校してきたいばらちゃんを、なぜかオレが校舎案内することになった。オレの隣にピッタリついて、いばらちゃんは真面目にメモを取っている。
好感持てる……。
「いばらちゃ……、さ、七種さんはお昼購買? お弁当っすか?」
「あ! 忘れていました。購買部あるんですね。あと」
「はい」
「茨でいいですよ、俺もジュンって呼びます」
「はぇ」
「お友達第一号であります! 心の友と呼んでもいいですか?」
「はゃ……」
へんなこえでた……。
「い、……茨、ちゃん、……えっと、うちの購買物凄く混むので……はやめに……」
「なるほど、あのごった返した状況は購買なんですな!」
廊下の先に、人だかりができている。あれの中心が絶品のパンや惣菜を売っている激安購買部。
「とりあえずいきましょうジュン」
「あゎ……」
手を取られた。
手を握られている、茨ちゃんに。握手会の時よりやわらかくてふにふにであったかい……。
「やや、進めません……し、後退もできないですね……わっ、」
ぎゅうぎゅうの列に飲まれて、茨ちゃんは俺の胸へと背中から倒れ込んできた。押し合いへし合い、密着する。
「ジュン、大丈夫ですか?」
「だ、いじょ、ぶ、……ッス……」
やばいやばいやばい、そん、な、股間に、股間にダイレクトに茨ちゃんの尻が押しつけられている。や、やわかい……無理……頑張れ俺の理性……ここで形を表したりしたら死を意味する。
素数を数えよう。
「やりました! ジュン! 美味しそうなサンドイッチを獲得せしめましたよ!」
「よ、よかったでーす」
きらきらとわらう茨ちゃんが、あまりにも無邪気でほんとに天使。
「それじゃあ……案内も終わりましたし……」
「お昼ですよね、ジュン、一緒に食べましょう?」
「はひぇ」
「お礼もさせてくださいね」
にこりと微笑まれたら、それはもう了解しなくてはだめだろう。
***
「ジュンはファンの方でしたか、ありがたいことですな」
屋上で茨ちゃんは端に座ってまくまくとサンドイッチを頬張っている。
「やっぱ、特定のファンを贔屓、するのはまずいとかそういうのあるでしょ、だからオレと友達とか……」
「え、いやでしたか……?」
茨ちゃんは面白いくらい顔を青くして、背景にガーンという擬音を背負って絶望顔してみせた。
「嫌じゃないです!」
「……よかったぁ……」
にへら、と、茨ちゃんがわらう。
そんな顔見たことなくて、本当にやばい。
「ジュン、これ、あげます」
「へ」
いばらちゃんは生クリームサンドのひとつを差し出してわらう。
「お礼の印です」
「ありが……!」
顔を向けたらいばらちゃんの谷間が見えて、あとスカートが腕に引っかかってめくれてしまってパンツも見えている非常にまずい状態になってしまっていた。
白、レース、紐。
「?」
「茨……、スカート……」
「へ? ……ひゃ!」
いばらちゃんは体制を崩して生クリームを下敷きに倒れ込んでしまった。ドジっ子でも売れると思う。
「大丈夫っすか、」
「あう、擦り剥きました……」
「え!? 怪我!?」
屋上のコンクリの威力。こんなことでアイドルを傷物にするわけにはいかない、とかなんとかオレは混乱して、茨ちゃんを保健室に運ぶ。保険医はいなくて、いばらちゃんをベッドに座らせて消毒した。ひじとひざから血が滲んでいる。
「痛いっすか?」
「大丈夫でありますよ」
「絆創膏貼りますね」
「はい……制服もぐちゃぐちゃで……」
いばらちゃんは、ボタンを外して、そっと、俺を見上げた。
「脱がせて……もらえますか?」
「あ……」
その熱っぽい目線に、手が震える。オレはブラウスに手を伸ばしてそっと衣服を解いていってそれから――。
――という夢を見た。
「夢かぁ……」
アイドルいばらちゃんのポスターを見上げて、オレは頭を抱える。ファン以上の関係になろうとかいうのは、厄介以外の何者でもない。でも心の奥底でそれを望んでいるからこんな夢を見たんだなぁ……とぼんやり思う。
週末の握手会にどきまぎする。いばらちゃんに会って、夢の続きを確かめたいな。
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主人公ジュン君が攻略対象茨しかいないギャルゲーでひたすらラキスケに会う学園物語
(茨は男女どちらでも!)
(220407)