政略結婚:王と女王の最近王と女王の最近
「……日和くん、どうしよう」
凪砂くんの王室に呼ばれて、どうしたのかと思えばちいさく、興奮しながらため息をついた。
「どうしたの? 何か悩み事? なんでもいうといいね、ぼくは凪砂くんの見方だからね……!」
「……うん」
王として立つ凪砂くんは孤独だけれど、強い。最近茨なんかと結婚したから疲れているんだろう。王宮は殺伐としているともっぱらの噂だ。
「……茨、」
「うん」
やっぱりあの悪女を演じたがる茨のことだ。一緒に悪態をつこうと頷いた――ら。
「……茨、とってもかわいくて……」
「……え?」
凪砂くんは深刻な顔でため息をついた。
「……茨、臣下の前ではつんつんしているけれどね、私と二人きりになると、ぎゅって抱き着いたりしてくれるのがとてもかわいくて……、悪女を演じたいからそれを頑張っているのもかわいいし、たまに寝坊するときの寝顔もすごくかわいい……。この間私が小鳥に餌をあげていたの、茨は興味なさげにしてたんだけれど、私が離れたらそっと餌台を覗いてそわそわしてて……、素直に一緒に餌をあげてって言えばよかったけどそのそわそわがかわいくて思わず画家に絵にしてもらった……。かわいい茨シリーズで連作にしてもらう……。それから図書室で本を取ろうとしてうんうん背伸びしてるのもかわいい……従者にやらせればいいのに……思わずとってあげたら、『王はそんなことしません!』って顔を真っ赤にしてどっかにいっちゃって……、多分照れてた……。それから……」
「まってまって、茨とは政略結婚じゃないの?」
「……そうだけれど。私たち、愛し合ってる」
「ええっ! 本当? 呪術でそう思わされてるとかじゃなくて?」
「……この愛は本物だよ」
そんな、世界一幸せそうな表情をする凪砂くんを初めて見た。
「……だから、茨が好きすぎてどうにかなりそうで、こわい、日和くん」
「もうどうにかなってるね……。気を付けて、こういうときとんでもないことするものだね、恋に狂った人々は」
「……うん、鉱山を買ってプレゼントしたりしそうになる」
「それはだめだね……大きな決断をするときはちゃんと側近に聞くがいいね。ぼくでもいいね」
「……ありがとう日和くん。じゃあ、茨のかわいいところたくさん教えてあげるね。まずは昨日なんだけど……」
惚気は日が落ちるまで続いた。この恋は本物。ぼくが立証してあげてもいいね!
***
おひいさんがくっちゃべってるから、オレは茨と隣の部屋で待機していた。茨も行けばいいのに、まあ遠慮してるんだろう。王妃と隣国の王の騎士長。変な組み合わせだけれど、幼馴染だから気安い。
それにしても。
「茨、なんか、かわいくなりました?」
「は? やめてください気持ち悪い」
「いや化粧も服も装飾もなんか自分の国の時よりかわいいっすよぉ。まあ恋は人を変える……」
「こ、恋……っ」
茨は真っ赤になって目を見開いた。そんな表情、みたことない。
二人は政略結婚だということだけれど、まさか――。
「……もしかして、凪砂王のこと、マジで好きなんすか?」
「な、なぜそれを!?」
「好きなんすねぇ」
「あうう……」
「へえ~~、あの茨がねえ」
恋なんて浮ついたものなぞ眼中になし! といった悪女を演じていた茨が、こんなに恋する乙女になっている。
茨は耳まで赤くして、うつむいてつぶやいた。
「恋なんて、したこと、なかったです」
それもそうだ。幼くして女王になった茨は側近に操られることなく一人だけで国を大きくした。周りは敵だらけ。友達もいない。まあオレぐらい。
そんな茨の、春。
「いいんじゃないすかぁ。幸せで。茨、普通の幸せにいるんすね」
「俺、こんなに幸せで、いいんですかね……」
ため息をつく。幸せのため息だ。それは良かったと思う。
「望まれる悪の女王を演じなくてはいけないのに」
「えー。というかもう悪女を演じなくてもいいんじゃないすか? キャラ変しましょう茨」
「そんなの無理です、やはり民衆は悪女を貶すことで意気投合し……」
「今度は王が大好きかわいい女王キャラで民衆も幸せにすればいいんすよ。結構そういう幸せネタでもみんな心が一つになりますよぉ? マイナスゴシップじゃなくてプラスのイメージでいけばいいんすよぉ」
「はあ……でも……」
「はい、にっこりわらって。そう、そういう表情のほうが、茨、魅力的っすよぉ。凪砂王もきっとそのほうが好きです」
「そうですか……?」
茨は鏡を見ながら自分を見つめた。その先にある愛しい人も。
恋に悩む茨を見れてよかった。少しずつ、幸せになってほしい。ここが茨の安寧の地ならば。
***
「いやぁ、よかったっすねぇ」
暫くして、凪砂くんと茨はすっかり王室のラブラブ夫婦というキャラ付で国のゴシップを席巻していった。
「凪砂くんも茨もなにもしらないあかちゃんだからね。ああして素直にしていればみんなを虜にしていくと思うね。いい日和! 今度はみんなでお茶会しようね。ジュンくんもね」
「はいはい~~」
きっとすぐに、祝い事の席が設けられるだろう。ぼくはそれを楽しみにしながら、どんなプレゼントをするか、思案しながら遠くの城を思った。
幸せに暮らしましたとさ。
物語の続きだって、幸せなのだ。
Request
凪茨を観察する日和(ジュンひよでも可)をお願いします。
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