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    moku_amekaru

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    moku_amekaru

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    鍾タル
    攻めを抱きたがる受けが好きって言う話

    誤解「っ、う〜…………いっつもだけど、さぁ」
    「どうした?」
    「もうちょい、これ……なんとかならない、の?」
     
     ベッドにうつ伏せ。枕に預けた頭だけを傾けて鍾離を睨めつける。優雅にグラスをかたむける端正な男。殴りたい、出来れば鼻の骨が砕けて凹むくらいに強く。
     この男のせいだ、ぜんぶ。タルタリヤをベッドに磔にする楔のように、じんじんと火照った痛みが腰から響いていた。
     
     
     タルタリヤと鍾離には身体の関係がある。
     その始まりは勢いからであったし、今でも明確な約束事がある訳では無い。ただ、共に酒を楽しんだ後にどちらともなく手を伸ばし閨へとなだれ込むのが通例化していた。
     片や璃月を海に沈めこもうとしたテロリストで、片や特等席で物見遊山を決め込んでいた岩神様。送仙儀式を巡る事件の渦中で、あれやこれやと手を巡らせていた二人の立場は既に互いに知るところである。
     口に出すつもりはないし、鍾離から聞いた訳でもないが。隠し事の必要のない関係は存外居心地がよく、多様な知識に溢れる鍾離との会話は有意義でもある。食欲であれ性欲であれ、時に戦闘欲であれ。存分に己を示して発散出来る関係は悪くない。
     それはそれとして。タルタリヤには不満があった。共寝をすると言っても、タルタリヤは男であるし、(神に人間と同じく明確な区分があるかは知らないが)鍾離も男である。子を孕む訳では無いし、どちらにも「出っ張った部分」を受け止めるための機能は備わっていない。片側が一身に負荷を受けるにも関わらず、いつだってタルタリヤが抱かれる側だ。なぜ。
     しかもだ。タルタリヤも鍾離も元より力のある武人同士。欲に任せて行為に没頭してしまえばそれを抑える余裕もない。酒を呑んで緩んだ思考のまま、どったんばったんベッドの上で争ってみました、みたいな激しい夜ばかりなのだ。バタバタと生理的に喧しく動くタルタリヤと、これまた馬鹿力で抑え込んで食らいつく鍾離。一頻り終えて正気に戻ったタルタリヤの身体は、痣やら噛み跡やら痛みやら。とにかく迷惑極まりない置き土産まみれだ。——タルタリヤもそこそこの数の噛み跡や爪痕を鍾離に贈っているが、ひとまず棚に上げておく。
     タルタリヤだって、一度くらい澄ました元岩神をひんひん啼かせてみたい。そこらの女人顔負けな程に見目がいいのだから、多分抱ける。
     そりゃ、まあ。清廉潔白、冷静沈着。それでいて度々金持ちじみた幼さ。性欲など存在しません! と看板を首にかけて過ごしている男が。そのかおに色欲を張り付けて、熱と砂糖に漬けたみたいな目で見つめてくるのはちょっと、いや。相当の優越感がある。だが。やはりその手で毎回どろどろのでろでろに抱き潰されるのは癪だ。
     
     
    「……次は俺が抱きたい」
     
     鈍く伝播する痛みに眉を顰めながら身体を転がし、グラスを置く鍾離の方へ向ける。髪を解き、下着も履かずに寝間着を羽織る男はとんでもない色気を纏っている。
     鍾離から返答はなく、ただ一つ瞬きが返された。水瓶から空になったグラスに再び飲水が注がれる。磨りガラスの模様がランプの光を浴びて、壁に薄く模様が浮かんだ。
     
    「公子殿は俺が抱きたかったのか」
     
     ぺたぺた。裸足で歩いてきた鍾離がベッドの端に腰掛ける。タルタリヤに起きあがる気力がないと察したのか手のグラスはサイドチェストの上へ。空いた手は枕に広がる髪に寄せられる。少し冷えた手で、汗の滲んだ襟足を撫でられるのは心地いい。
     
    「そりゃ、ねぇ。毎度毎度、こんなズタボロにされたら堪ったもんじゃない。俺だってあんたを好きにしたいさ」
    「ハハ、ある意味手玉に取られているとは思うが」
    「そういう態度が気に食わないって言ってるんだよ」
     
     ああ言えばこう言う。いくら不満を示したところで鍾離は気にしない。むしろタルタリヤの反応すら新鮮なのか、愉しんでいる節まである。根本から偉そう……否。偉い人の傲慢さが消えないのだ。ただの凡人だと形のいい唇で宣う癖に。
     
    「……ふむ、そうか」
    「っうひぃ!?」
     
     鍾離の手が、触れるか触れないかの境で項をなぞる。そのまま、背骨をそってすべっていく。
     
    「っうえ、へえ? な、なに」
     
     そのまま。拓かれて清めたばかりの尻を、普段晒されぬ鍾離の手が撫でた。脇腹の前の方にまで、ちょっと跡が残るぐらい強く掴まれたそこ。記憶をなぞるように鍾離の手が辿り、そしてそのまま背を撫でる。
     ぞくぞくと。底に着くほどに出し切ったはずの欲の名残が。ぷくぷくと沸く泡のように浮き出してくる。振り払うように鍾離の手を払い、押さえつける代わりに握り返す。不満を全部込めて睨んでも、鍾離はいつも通り楽しげに頬を緩めているだけだ。あがりかけた息を諌めて、溜息にして吐き出した。
     
    「はあ……先生、なんか言いたいなら口で言いなよ」
    「大したことではないんだが」
    「どーぞ」
    「接吻よりも、愛撫よりも。俺がお前に挿れるとき、殊更『いい顔』をするものだから」
    「……ん?」
    「てっきり公子殿は抱かれるのを好んでいるのかと思っていた」
     
     端に腰掛けていた鍾離が、タルタリヤに沿うように横になりながら。まともに動きたくない身体をタルタリヤの代わりに鍾離の腕が動かし、余裕のあるベッドの真ん中に二人で並ばされる。ぱちぱちと瞬き整えた視界にはうっそりと表情を綻ばせた鍾離の顔。ついでに、失礼極まりない言葉が耳に届く。
     数秒置いて、ようやく脳の理解が追いついた。カッと熱を持った顔をそのまま、衝動のままに背中を殴ったが、逆に抱き込まれてしまった。ばたばたと脚を揺らしてもびくともしない。
     
    「こら、暴れるな」
    「あんたが妙な誤解してるからだろ、ばーか!」
    「ふっ、そうか。誤解か。これは失礼した」
     
     全く悪びれもしない顔で、しかも吹き出しながら呟いた鍾離の背をもう一度強く叩いた。
     抱かれるのも悪くないと思っていた自分を見透かされているようで悔しい。次こそ、絶対に抱いてやる。丸め込まれぬように、タルタリヤは固く決意した。
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