小船の欲 ——ぐわん。
世界が揺れている気がした。実際は、男二人が乗り込んでいたベッドが軋んだだけだった。
ぼうっと、霞む天井。端に映るランタンが妙に眩しい。意識はあるのに、上手く筋肉が機能していない。例えるなら、ぬるい水面に浮かんでいた身体がどこまでも沈んでいくような。くったりと身に纏った倦怠感が、留まることをよしとしない暴れん坊への重しだ。早く帰れと急かす心を抑え込み、まだ動きたくないとシーツの海に括り付けている。
「公子殿、動けるか」
穏やかな低音と共に視界が塞がる。ついさっきまで欲に濡れていた声はいつも通りのものに戻っていた。
前髪を押し上げながら、湿った髪をタオルが拭う。僻地での任務で渡されるのとは比べ物にならないくらい、柔らかで品のいい匂いがする。
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