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    moku_amekaru

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    moku_amekaru

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    お題「おはよう」1h+45m
    #鍾タルワンドロ·ワンライ
    ※微死ネタ/全部捏造二次創作

    おはよう、神様 やあ、こんにちは。もう春も近いし、暖かくて気持ちがいいね。あ、先生も少し温い。
     調子はどう? 昨日は雨だったけど大丈夫だった? 先生、財布だけじゃなくて傘も忘れちゃいそうだからさ〜。あ、俺の方は無事大学も決まったよ。しかも、璃月のね! こう見えて案外勉強もできるから海外特待枠でとってもらったんだけど。まだまだ下の兄弟もいるし、親にも迷惑かけられないし。春から晴れて一人暮らしだよ。説得するのは骨が折れたけど、ちょーっと古風だけど璃月語は結構わかるし、箸も使えるってなんとか説き伏せたんだ。ん、さて。誰のせいだっけかな。
     
    「……なーんて、ね。まあ聞いてないだろうけど」
     ——湿った草原に腰かけて、供え物代わりのモラミートを口に運ぶ。ほんの少し、粉のついた指でアヤックスは日に照らされた石像の裾を撫でた。
     

     アヤックスには前世の記憶がある。しかし、生まれた頃より覚えていた訳ではなく、これを取り戻したのはつい一年前のことだ。
     アカデミーの修学旅行で璃月に訪れたときだった。冒険じみたことばかり好み歴史に興味のないアヤックスにとって、璃月の遺跡を巡るのは実に退屈だった。ずらかってどこかで暇を潰そうと当たりを見回して、ふと。小高い丘が見えた。あそこに行けば色々見えるかもしれないとさっさと抜け出した。
     そこで見つけたのが目の前にある石像だ。丘の影にひっそりと、しかし確かな存在感を持って頬杖をつく威厳のある男の像。古いものなのか少しだけ台座が崩れ、辺りには草花が茂っていた。
     
    「んー……百合? かな」
     
     近くに数本だけ生えている白い花はアヤックスの見たことのないものだった。形状は、故郷に生えている百合に似ているが青みを帯びた大柄の花弁はずっと美しい。
     視線をあげる。随分、凛々しい男だ。服は今とは随分違って露出が多いけれども、鍛え抜かれた肉体は武人としても見栄えがいいと思う。表情こそ象られていないが恐らく相当の美丈夫だったのだろうと窺えた。
     
    「う、うーん……」
     
     台座は随分高さがあり、はっきりと像が見えない。しかし、アヤックスはどうにもその男の姿に見覚えがあった。ただの思い違いだろうか。いや、そうではない。そうでは。
     ふわりと、お香の匂いが鼻を掠めた。
     
    「あ、……しょうり、先生?」
     
     そうして全て思い出した。男はかつての自分がよく知る奇妙な武神だった。
     
     
     そこからは早かった。すぐに他の生徒と合流し、真面目に説明を聞き、そして自分でも璃月と鍾離が存在していた時代について調べた。知識を蓄えると、それに伴ってアヤックスの記憶の輪郭がはっきりと形をつくる。補完され、かつての自分の名前も全て馴染む程に思い出した。
     アヤックスはかつて、「公子」タルタリヤとしてスネージナヤの組織に属していた。最期は悪役らしい目も当てられないものだったが、そこそこ楽しい人生だったと思う。その任務の途中で出会ったのが目の前の男、鍾離という名を騙る岩神モラクスだった。
     どこか浮世離れした男の知識は興味深く、その武技には価値があり、たまに抜けているところは放っておけなかった。結局、タルタリヤが死ぬまで何となく交流は続いていた。いつの間にか、誤魔化したい思慕を抱くほどには。立場やなんやらでそういった想いを伝えることは無かったが。
     調べて分かったことは、タルタリヤとして生きていたのが凡そ千年前。土地の名前は変わらず、言語も少し変わりはせよ基礎は同じ。各国から七神が退いたことで、新たに神の目を持つものは生まれていない。それに伴ってか、世界全体の元素の力は弱まり魔物も随分と弱体化し数を減らしたようだ。岩王帝君を信仰する者は現在もいくらかいるらしい。
     記憶を取り戻したのは悪くないが、いいことでもない。元来混沌を好んでいたアヤックスにはかつての状態を思い出したせいでさらに退屈な世界に見えた。そうして、どうにも近づきたくなってしまった。かつて焦がれた無尽の力を持つ男に。
     思い立ったが吉日。好まなかった勉強に勤しみ、授業も真面目に受けた。突然態度の変わったアヤックスに教師も親も驚いていたが、全ては璃月に単身で乗り込むため。無事に受験を通過し、璃月の名門大学へ行けることになった。
     
     
     そうして今日。アヤックスがこの石像を訪れるのは二度目だ。住居の契約や入学資料を受け取り、空いた時間で抜け出してきた。昨日が大雨だったせいで道はぬかるんでいたが、石像の周りは不思議なくらいに日が当たって心地いい。鍾離が存外肉好きだったからボリュームのあるモラミートを持ってきたが、結局本人に渡せるはずもなく。語るのを好んでいた男の、何も語らない像を眺めて。遅めの昼食を取っていた。
     
    「……場所だけ近づいても意味ないか。先生なら、まだ生きてるかもと思ったけど」
     
     指についた肉汁を舐め取り、紙ナプキンで拭き取る。さて荷物を持って帰るかと立ち上がりかけて——
     
    「…………ん?」
     
     土の中に黒い塊が見えた。鼠かモグラだろうか? 興味本位で土をかきわける。出てきたのは毛の生えていない黒曜石のような色の……肌だ。隣に添えた、アヤックスのものと質感が似ている。
     そして、ぴくりと。動いた。
     
    「えっ、え?」
     
     慌てて立ち上がって後ずさる。アヤックスが掘ったあたりから手が生えてきた。そのまま、長い腕が出てきて土が揺らぐ。もうひとつ穴が空いて、腕がもう一本。
     
    「……っふ、はは」
     
     突然のことに驚いていたアヤックスの口から乾いた笑いが漏れた。呆れでも恐怖でもなく、高揚から。土から人間に似た何かが這い出てくる。こんなよく分からないことをしてくれるやつなんて一人、否。一柱しかいない。
     土が盛り上がり、首がでてきた。白い衣服、不思議と汚れのひとつも無い。そのまま、ステージにでも上がるような気軽さで身体が持ち上がり、全身が出てくる。ああ、ああ。目の前の像と同じ姿の。アヤックスの記憶にある姿の。
      
    「……っふ、鍾離先生。俺でよかったね……っく、ふ、じゃなかったら、新発見のUMAか怪談行きだったよ」
    「……ん?……は?」
     
     アヤックスは噴き出してしまうのをこらえるのに必死だった。歳のせいか、記憶よりは少しだけ目線が高い。声に振り返った男はその鮮やかな琥珀を研磨した玉石のように丸めて。化けた幽霊を見たように、見つめてきた。おかしいのはそっちの方だと言うのに。
     
    「……公子、どの? なぜ……お前は、死んだだろう」
    「ん、死んだ。そして生まれ変わった」
    「生まれ……待て、今はいつだ」
    「俺が死んでから、だいたい千年くらい」
     
     鍾離は暫し考えるように首に手を添え、そして深くため息をついた。
     
    「……どうやら、俺は800年ほど寝ていたらしいな」
    「っふは! 冬眠春眠どころか、ほぼ千眠だね」
     
     眉を下げた鍾離に耐えきれずにアヤックスが吹き出し、そして近づく。バシバシと戯れに叩いた肩は透けておらず、そこに存在していた。土の中にいたせいか、生物には思えぬほどに冷えている。
     
    「他の世界に旅立つ旅人を見送り、そうして公子殿や親しんだ人々を見送ったあと。俺は平和になった世界を巡った。どこの国でも人は神がなくとも生き生きと過ごせる。そうして、しばらく見守ったあと……何故か強烈な眠気が訪れるようになった。人間の中で過ごすのは体力がいるのか、それとも神の心を手放したからなのか。どちらにせよ俺が出来ることはもうさほどないだろうと、石像の近くに巣を作って眠りについたんだ」
    「巣って。……まあ、龍だからそうか。それでいつの間にか土に埋まっちゃってたと」
    「恐らくな」
    「どこまで行っても凡人じゃないなぁ」
     
     顔に手を伸ばし、その肌に触れる。柔らかで、微かな熱。手のひらで撫でると動物のように擦り寄られ、そのまま手を重ねられた。冷たい、でも生きてる。いきてる。
     
    「……どうかしたか?」
    「いや、少し期待してたけど……またあんたに逢えたなってさ」
    「ああ。俺も、まさか寝起きにまみえるとは思わなかった。公子殿はどう過ごしてるんだ?」
    「ん、名前はアヤックス。前の本名でもある。それで、来月から璃月の大学生」
    「何!? それではこ、……いや、アヤックスは」
    「いいよ、公子で。先生からはそっちのが落ち着く。そんで、今度からはこっちで過ごす」
    「……そう、か。そうか」
     
     触れていた手にまた頬が擦り寄られる。心做しか、少しだけ緩んでいるような気がする。指でつまんで、髪に指先を絡めた。
     
    「……それで、さ」
    「ん?」
    「昔みたいに自由に使えるモラはないし、まだ未成年だし。一般人だし、運動はできるけど戦闘はできないただのガキだけどさあ」
    「ふ、ああ。俺にも大した蓄えはないし、昔ほどの力はない。まずは戸籍を得るところからだ。それでも、一緒に過ごさせてくれ」
    「あ、途中で奪うのは卑怯、だろ……っと」
     
     文句を言おうとしたのに、鍾離の腕がアヤックスの背に周り少しだけ身体が浮く。肩に手を添えてバランスを取りまじまじと眺める。目尻が少しだけ、湿って見えた。
     
    「……先生、泣いてる?」
    「いや……寝起きだからな」
    「ふうん……あ、言い忘れてた」
     
     鍾離はきょとりと首を傾げた。それを気にせずアヤックスの方からも腕を回して耳元に唇を寄せる。自称凡人、とびきりのねぼすけに、まだ言っていないあれ。千年以上伝えることのなかった陽だまりの言葉を。
     
    「先生、おはよう。またよろしくね」
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