「幸せになってください」
廊下の曲がり角から、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
類が壁からひょっこりと顔を出すと、劇団のスタッフと司が談笑しているところだった。
「何を話していたんだい?」
類がスタッフの後ろから声を掛けると、面白いくらいに肩をびくりと跳ねさせた。
「かっ、神代さん!?」
「やぁ、楽しそうだったね」
わたわたと慌てるスタッフを横目に司の方を伺うと、何やらいつも以上にキラキラした笑顔で笑っている。
「類!今日の夜は楽しみにしているといいぞ!」
類が何事かと聞くより先に、司はスタッフを連れて行ってしまった。
その後ろ姿を見つめながら、類は司のことだ、と踵を返した。
「類、少し話があるのだが」
二人が家に帰ると、食事も待たずに司は類を引き留めた。
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