あなたは知らない片思い ベールジールの城にて、晩餐会に参加したポプル。食事が始まる前に、ふと夜風に当たりたくて外に出るが、赤い雪の降る町ではあまりにも薄着であったため、ぶるりと体を震わせた。
ふわり、なんて生易しいものではなく、目の前が真っ暗になるほど雑に背後から黒いマントを投げつけられた。
「なにをしている」
「ベールジールさま!」
「なんだ、その不満そうな顔は……。そんなところに長くいては風邪を引く。いくらお気楽で能天気な貴様でも、普通の風邪は堪えるのではないか?」
「嫌みなひとね!」
べっ、と舌を出すポプル。けれど、かけられたマントにくるまって、あたたかそうだ。
「ありがと」
「…………図太い性格のわりに、存外柔い肉体のおまえにこの寒さは酷であろう」
ベールジールが、ぱちんと指を鳴らすと降っていた赤い雪はぱたりと止み、紫の月が顔を出した。
「思ったより、か弱いと言いたいの?」
「まさか。ただ、貴様をここに呼んで、もしなにかあればおまえの保護者になにをされるか、わかったものではないからな。それに、客人にはそれ相応のもてなしをするのがわが矜持。不自由はさせぬ」
「な~んか、気になる言い方!」
ベールジールは、ふと、空を見上げた。ポプルと出会うまで、月明かりとは無縁の生活をしていた居城。それが今では、こんなにも光を受け入れている。その現状に、ベールジールは目を細めた。
「…………──星が、綺麗だな」
「ベールジールさまでも、そんなこと思ったりするんですね?」
「美しいもの、好ましいと思うものを愛でる趣味くらいあるわ」
「そうなんだ」
「貴様、余をなんだと思っている?」
「ふふっ。だってわたし、語れるほどベールジールさまのこと知らないもん」
「ふん。だが、届かぬと知っていながら、手を伸ばさずにはいられぬというのも、難儀なものだ」
「星の話?」
「…………」
「ね、ベールジールさま」
ポプルが彼の名を呼び、彼の前で手を広げて言った。大きかったマントが、ずるりと肩から落ちかけていたがポプルは気にしていなかった。彼女は、笑っていた。世界で一番、綺麗なものを見つけたような笑みを浮かべて、彼を見た。その姿に、
「星もそうですけど、今日は月も綺麗なんですよ!」
「…………!」
ひとりの男(彼)は、目を奪われた。
「空気も澄んでて美味しいし、月や星が輝いているからお空も明るくて、雲ひとつないいい天気。星だけじゃなくて、星以外にもたくさんの綺麗なものであふれてます!」
「星以外、か……」
「はい! もちろん、ここに住む悪魔たちがいるこのお城だって綺麗なもののひとつですよ?」
「余は……」
(本当に欲しいもの、以外、など……)
美しいもの、好ましいと思うものを愛でる。彼は、彼女へと伸ばしかけた手を引っ込めた。
「ふっ。そなたは、まぶしすぎる」
「え?」
「なんでもない。冷えるだろう。おまえに合わせた食事も用意している。魔界の食事は、そなたの口には合わんようだからな」
「えっと……前のコックさんは、生きてます、よね?」
「今のわたしは、自分の部下をイタズラに消したりはしない。どこかのお節介な誰かのおかげでな」
「今の……?」
「貴様には、感謝しているということだ。…………行くぞ」
「あ、待ってください!」
終わり
夏目漱石がアイラブユーを月が綺麗ですねと解釈したという話から派生して、星が綺麗ですねには真面目なひとという意味や、あなたに憧れている、片思いをしているという意味があるのだとか。星が綺麗ですねの返しに、月も綺麗ですよと言うとわたしもあなたが好きですという意味になるので告白成立なんだとか。まあ、このベルポプはどちらもその意味は知らない設定なんですけど(日本特有の奥ゆかしいやり取りなので)
余談だけど、海が綺麗ですねという言い回しもあって、意味はあなたに溺れているんだとか。これもおしゃれだね。ポプルは普通に溺れてたけど(たぶん今は泳げる)ちなみにこの言葉の返しのひとつに、泳いでみますかってのがあって、告白を受け入れる意味に取れるのだとか。ポプルに海に誘われれば片思い勢はみんな一緒に泳いでくれそう