見えない鎖を断ち切ってやる。
鎖と書いて、未来や予知夢と読む。
「必ず助けてやる。あとはおまえが選べ」
そっと差し出された手を、払うも掴むも君次第。
ネタバレするとポプルの勘違いと空回りから巻き起こした事件をラルガスたちが解決する流れ。ハッピーエンドです。
ところで、先生の弟子へのお仕置きってなにしてんだろ?
魔法陣の書き写し千回とか、他はなんだろ?
壊れていく。このままじゃ……。
わたしの記憶(せかい)が、消えて、なくなってしまうわ。
お願いよ。だれか……!
わたしにしか見えない、この悪夢(よち)を、どうか素敵な現実(みらい)に塗り替えて!
幼い姿のまま、邪神の力が無理に中途半端に覚醒したポプル。力のひとつでもある予知能力が頻繁に起こりすぎて現実と過去と未来がごっちゃになって分からなくなる。
ふらふらと夢遊病患者のように出歩き、予知夢によって心が病んでいくポプル
アルたちの名前も呼ばなくなり、あなたたちという言い方になりそこでようやくアルの中の違和感が確信へと変わった。
「グラヴィー! あんた知っていたのか!」
「壊れていく……を見ていられないというのなら、貴様はそれだけの器だったということ。さっさと……の前から立ち去るがいい」
アルとグラヴィーさんの言い争う声がきこえた。わたしは怖くなって、屋根裏部屋へ逃げた。みんな仲良くしてほしいのに、うまくいかないなぁ。誰も、いなくなってほしくないと思うのは、わたしのわがままなのかな?
だんだんアルたちをアルたちだと認識できなくなっていくポプル。それと同時に、グラヴィーの姿がまるで見えていない態度を取る。この世に邪神はふたりもいらないと、他でもないグラヴィー自身が決めたことにより、ポプルからはグラヴィーの姿が見えなくなってしまった。
ここにいるのに、いないものとして扱われて、おまえは平気なのかと言うアルに、グラヴィーは言った。
「この世界に、邪神はふたりもいらぬ。だが、あの子は優しいからな。わたしを殺すことはできない。殺せないならせめて、片方をいないものとして振る舞うしかない。それは仕方のないことなのだ」
淡々と言うグラヴィーの姿に、悲しみや寂しさはない。ただ愛しい娘の成長を喜ぶ父親の姿しかなかった。それがアルには、とても恐ろしく、不気味に見えた。そうだ、こいつは腐っても邪なる神なのだと、アルは改めてそう恐怖した。
(おれたちとは、価値観も考え方も、なにもかもが違う存在。それが神だ)
アルは、なにも言えなくなった。握った拳からは血が滲むほど強く、自身のふがいなさから八つ当たりをするように、強く強く握りしめられていた。
ポプルの中では未来予知が正確で現実のものだと思っているので、本来の現実が見えなくて混乱して旅に出るとか。
ガシャン。冷たい金属が胴体に巻きつく。冷たいそれに、鎖に絡め取られ、身動きが取れない。ぷらぷらと宙に浮く体。
下は、断崖絶壁。落ちたらひとたまりもないことくらい、考えなくてもわかる。
「おまえは、なにをやっているんだ!」
懐かしいような、よく知っている声がきこえた。
「アベル、さん……?」
そうだ。アルはもういないんだ。
先生やアルやリアナが死んじゃう未来予知を、過去に起きた出来事だと勘違いしてるのでポプルの中の現実では先生たち死んだことになってる。
「…………ぁ」
ひどくめまいがする。わたしはまたあの夢のような日々を、夢見ていたんだね。こっちが現実で、みんな死んじゃってるのに。
わたしは覚えてる。血のあたたかさも、ぬるつく血の不愉快な感触も。動かない体の冷たさも、心臓の止まった体の怖さも。あの日のことは今でもはっきり思い出せる。
何度も何度も、夢に出てきた。わたしたちが朝からなにをしていたのか、その日はどんな天気だったのか。噎せるような鉄のにおいだって、全部思い出せる。
だから、わたしが起きて幸せな現実が待ってるなんてありえっこない。
本来の現実ではちゃんと生きてる。ちゃんと生きてる先生たちをきちんと認識すればポプルもあれは予知だと気づけるんだが、ポプルから見た本来の現実の先生たちは、先生たちによく似た別人でポプルを悲しませないよう本物として振る舞うがあくまで先生たちではない誰かとして認識してるのでもうなんかうん、記憶がバグってる。
だから先生は全身全霊をもってポプルの完全な予知を覆そうとあがいてる。
頑張れ先生負けるな先生、それは先生にしかできないことだ(邪神の予知を外すことができるのは同じ邪神の血を持つものだけという私独自の設定)
ポプル「せん、せい……。そうだ、先生はずっとここにいてくれた。ううん。先生だけじゃない。アルもリアナも、ずっと一緒だったんだ」
ラルガス「ようやくこちら(現実)を見たな? これで何度目だ。長かったが戻ってこれたなら、説教もお仕置きも後回しにしてやる」
(あれ? じゃあ、あの夢は、いったいなに?)
思いついてしまった可能性に、嫌な汗が背中を伝った。
「ぁ、ああ……いや。違うよ。そんな、わたしが……」
わなわなと、手が震えた。
(みんなが死んじゃったとき、わたしはなにをしていたの?)
「違う、違うの。わたしは……そんな」
一瞬、自分の手が誰のものかわからない血にまみれる幻覚が見えた。
(なんでわたしの手は、いつも血にまみれていたの?)
「いや、いやぁ……」
なにも見たくなくて、目を塞ぐ。
よく知る血のあたたかさを感じた。夢の中で何度も体験した感覚だ。
(どうしてわたしのまわりだけ、血溜まりが広がっていたと思う?)
「違う」
鉄のにおいが、する。
(わたしが、殺したんだ)
「嘘よ……そんなの、ただの悪い夢で……」
未来の光景を、夢で見た。
(わたしの見た予知夢は、誰にも変えられない)
「いや、いやよ。もう、やだよぉ……」
真っ黒な魔力が、わたしを中心に渦巻く。
(変わることのない、未来なんだ)
「いやぁああああああああっ!」
耳をつんざく絶叫は、痛々しい悲鳴へと変わるのに時間はかからなかった。
身を切り裂くような嵐は突然巻き起こった。
「いいかアル、リアナ! 意地でも絶対、死ぬんじゃないぞ!」
「わかっています! アルもラルガスさまも、死なないでくださいね!」
「おまえこそ、わかってんだろうな? もし死んだりなんかしたら、おれがあんたを殺すからな!」
ポタポタと落ちる、誰かの涙がわたしの服にシミを作る。目の奥で、チカチカと炎が燃え上がる。
耳元で誰かの叫び声がうるさいくらいに響いた。耳を塞いでも絶叫は止まらない。うるさいな、少しだけ静かにしてよと声を出したくても、すでに開いていた口が音を発することはなかった。
あ、そっか。泣き叫んでいたのは、わたしだったんだ。
「あーよかった! 全部わたしの見た夢だったんだ!」
わたしはそう、馬鹿みたいに安心したの。
みんなが死んじゃったことは本当は全部わたしの妄想で、そんな夢を見て泣きながら起きると、朝ごはんのいいにおいがキッチンが漂ってくる。それでようやくホッとして、屋根裏部屋から一階のキッチンまでペタペタと歩いていく。
みんなが死んじゃうだなんてひどい夢を見たんだって話すわたしに「勝手に殺すな」って言ってわたしのおでこを指で弾くアル。
「心配しなくてもちゃんと生きてここにいますよ」って朝ごはんを運びながら言ってくれるリアナ。
「わたしたちが簡単に死ぬと思うのか?」って、紅茶を一口飲んでから、いつもみたいに不敵に笑ってくれる先生。みんながみんな、生きてわたしと一緒に朝ごはんを食べてくれる幸せな光景。
そんなバカみたいな平和な日々を、わたしは何千回繰り返したんだろう。
その日が来るのは、少し早かったんだと思う。もう少しゆっくり来てくれればよかったのになぁ。そうすればわたしは、壊れてしまったわたしの世界(記憶)で、幸せな夢の続きを見ていられたのに。
ポプルの意識に直接声を届ける魔法
「ポプル、ポプル! わたしの声が、きこえるか?」
「おまえがなにを視たのか、なにを嘆いているのか、わたしたちにはわからない。だから教えてくれ」
「一緒に乗り越えよう。いつだってそうしてきたじゃないか」
「このまま嵐の中に閉じこもる気か? そんなこと、わたしたちが許すわけないだろう?」
「おまえひとりで悩むな」
「どんなに絶望的な最後が待っていたとしても、未来は変えられる。それは他でもない、おまえが教えてくれたことだ!」
「変えられるさ。わたしたちなら。おまえと一緒なら、未来は変わる」
風が、雷が、ぴたりと止んだ。
ポプルが止めた。
「やれやれ、未来(先)が視えすぎるというのも、考えものだな」
マントでポプルの顔を覆いながら「見えないくらいがちょうど良い。そうは思わないか?」
「あまり思い詰めるな。先のことばかり考えるな。今を、わたしたちを見て、わたしたちとこれからを考えていけば良い」
たったひとつの確定した未来が視えてしまうのなら、固定されないよう望む未来を探り当て、幸せな未来を選ぶこともできるという安心エンド
決められた未来はひとつじゃないからね。可能性だけなら無限に存在する。その無限の中から最悪だけを弾けばいい。
パパは全知全能の神だけどポプル、ラルガスはまだ未熟だから今は万能レベルだろうね。それもすごいことだけど
ポプルが未来や過去、もしかしたら千里眼のように今も視れるとして思ったこと。
原作の方で、夢という形でルーイとヒルダのやり取りを見たのは過去の光景。グラヴォス平原へたどり着く夢は予知夢。だけど、マリーと夢で会話したのは過去の光景というよりもうひとつある平行世界への干渉に近いんじゃないかな。幽霊マリーがポプルの夢に出てきてメッセージ送ったとかでもいいけど。たぶんもう天界逝ってるだろうし今回は別の線で。
平行世界だったとして、ポプルの夢の中のマリーが、ポプルのこと知ってたってことは、マリーが生きてる時空である平行世界のポプルも邪神の娘でわりと万能。それを何らかの形で知ったマリーが何かしらの理由で別の平行世界(マリーが死んでる時空)の存在を偶然知ってしまい、どちらのポプルも持つ平行世界へ干渉できる能力を使って夢としてポプルの無意識に語りかける。そしてポプルに、孫をなくした時空のシャルムたちを託したのかなと(難しい話だ)