ひとごろし初めて作ったアイテムは、実はドラゴン・キャンディじゃないんです。
ううん、違う。そうじゃない。もっと正確に言うなら、初めて『成功させた』アイテムですね。
先生、覚えてますか?
わたしが作ったアイテムの中で、一番完成度が高いもの、あったでしょ?
先生が一番驚いたアイテム。そして危なくて使えないって言ったもの。
そう、身がわり人形。でもね、本当はあんな感じじゃなかったんだ。
本当はね。寿命をもらって、そのひとの姿を完璧にコピーする能力じゃなくて、本当は……本当は…………。
…………本当は。
人形のボタンを押したひとの、寿命全部を吸い取り、脱け殻となった体を置いて、人形が本物に成り代わるアイテムだったの。本物の姿をコピーして、本物と同じ人格、魂が人形に宿る。人形は本物の姿を完璧に再現する。そんなアイテム。本当なら、人形が壊れれば元の肉体に戻るはずだった。
…………これも欠陥があって、人形の体なら痛みもなく、壊されても脱け殻となった肉体に戻れば大丈夫なはずだった。けど……。
先生も、知ってるよね? 身がわり人形は、本物と違ってすごく脆いの。
成り代わった人形が壊れれば、寿命を吸い取られたひとも、死んでしまったの。人形が壊れても、脱け殻となった体は動かなかった。寿命を全部取られた瞬間、冷たくなって死んでしまっていたみたい。
わたしね、すごく怖くなった。わたしのアイテムが、簡単にひとの命を奪う道具になってしまったことを。そしてそれを悪用できることに。
先生も知ってる通り、わたしは魔法がすごく下手だったの。力もないし、簡単に殺されちゃうような弱っちい存在。だからアイテムに頼るしかなかった。アイテムを、使うしか、なかった。
魔女狩りって、本当にあるんだねって、実感した。だから、殺さないと殺されちゃう。仕方なかったって、言い訳するしかなかったの。
ごめんね。わたし、先生が思うほど綺麗じゃないんだ。
思い出したくもないから、あんまりよく覚えていないの。
課外授業として、見習い魔女として、何人かで人間界へ行った。
そこで、先生が油断した隙に、わたしたちは危ないひとたちに捕まった。
持ってたアイテムを奪われた。
魔女だとバレた。
本当は、売ろうとしたんだって。お小遣い稼ぎだって。売れた魔女は死刑だろうって、笑ってた。
でもアイテムが便利だからもっと作れと、生かされた。材料のある場所は人間界にはないもので、ホウキに乗れる友だちも一緒じゃないと集まらないと言えば、同じ見習い魔女たちも生かされた。何人かは、ちゃんと戻ってくるよう人質にされて。
身がわり人形、ううん。この場合、成りかわり人形について説明したら、危ないひとたちは大喜びで人形のスイッチを押した。なんの不自由もない不死身の体だって。恐れ知らずの人間兵器だって。
欠陥があるなんて、知らなかった。わたしも、そんな恐ろしい欠陥があるなんて、わからなかった。
たくさんのひとが死んだわ。壊したのはわたしじゃないけど。危ないひとたちは野望があったみたい。無謀にも国に戦いに挑んで、負けて、二度と元の体に戻れず人形として死んでいった。
わたしのせいよ。
あのひとたちが死んで、感謝するひともいたわ。でも、それ以上にわたしを怖がってた。わたしも、わたしが怖かった。こんな恐ろしいアイテムを作れてしまうわたしが……すごく怖くなった。
アイテム作りなんてやめてしまいたい。そう思った。だけど、次々と溢れるアイディアを止められなかった。面白いアイテムを作りたかった。こんな危険なアイテムなんかじゃなくて、みんなが笑顔になれるアイテムを。
アララカン先生がね、言ってくれたの。死なせてしまったひとたちを忘れないこと、二度とこんな悲劇を繰り返さないこと。それを心に刻み、あなたはあなたが本当に作りたかったアイテムを作りなさいって。
だからわたしは今、ここでこうして生きてるの。
がっかりした?
これがわたしの秘密。
ティンクル☆スター。輝く星の意味はね、死なせてしまった彼らを忘れないためにつけたお店の名前なの。だってひとは、死んだらお星さまになるんだよね?
酷いひとたちだったけど、せめてその魂は輝くものであってほしかったの。
わたしね。先生やアルやリアナ、他にも大好きなひとたちが、生きるために誰かを殺していたとしてもなにも言わない。言えないよ。わたしだって、知らなかったとはいえ、ひとを死なせてしまったんだもの。だからなにも言わない。ひとを殺していたとしても、わたしが先生たちのこと大好きなことにかわりないもん。