世界が終わる時が来ても一緒にーー世界が終わる時、貴方は誰と過ごしますか?
世界の終末が来ているのだと人々が騒ぎ立て喚き立てる中、黒髪の男と白髪の男は台所で黙々と作業をしていた。
「どうだ?餃子のひだ作れそうか?」
「うむ……中々難しいのう」
白髪の男ことゲゲ郎の持つ餃子から肉の餡と海老の餡がポロポロとこぼれており、黒髪の男こと水木の持つキッチリと閉じた餃子と比べると一層不器用さが際立っていた。
「あー、テキトー。つーか、慣れだな」
「慣れ」
「経験を積んでいくことだ」
「ふむ」
「まあ、ひだ無しで閉じても良いから」
その言葉に甘えてゲゲ郎はひだを作らずに肉の餡や海老の餡などを皮に乗せて閉じていく。水木のひだ付き餃子と比べると今から茹でるように見えるが、これから焼いていくのである。
「うっし。餃子出来たから焼いていくぞ。で、次は春巻きだな」
「それなら得意じゃぞ! ほれ!」
ふんす、と鼻を鳴らして得意げに白子やおこわを春巻きの皮に乗せて巻いて量産していくゲゲ郎に可愛いなと思いながら水木は火をつけたフライパンにごま油を入れて搾菜の葉とメンマを投入していく。
「ゲゲ郎、春巻き終わったら浅漬けとビール出してくれ」
「承知」
返事をしながら春巻きの皮を巻いていくゲゲ郎の手つきは職人並みに素早く正確無比であった。さっきの餃子のぶきっちょはどこに行ったんだと言わんばかりの店に並べても遜色ない出来栄えだ。
巻き終えた白子と大葉の春巻きとおこわの春巻きを、カセットコンロに設置したフライパンーーそれもひたひたの油の中ーーに投入して揚げていく。
「うっし。搾菜とメンマは出来上がった。餃子もいい感じだな」
「春巻きは…………強火にして良い頃合いじゃな」
しゅわぁ、と油が泡立ち、皮がきつね色に揚がっていく。菜箸で素早く掬い上げて皿に春巻きを盛り付けて水木に手渡す。
テーブルに並べられた肉餃子と海老餃子、白子と大葉の春巻きとおこわの春巻き、搾菜とメンマの炒め物、搾菜の浅漬け、白飯とビールに二人は目を輝かせて座る。
「「いただきまーす!!」」
エビスの缶ビールを当てて乾杯し、一口飲む。強い麦とホップが喉にガツンと通って染み渡っていく。
ゲゲ郎の箸は肉餃子に、水木の箸は海老餃子に伸びて口の中に運ばれていく。
「んー!肉汁が溢れて……うまい……」
「エビの方はスープみたいで美味いな…………」
豚肉とキャベツの旨味と甘みが酢醤油と、海老と帆立と青梗菜の滋味と旨味が塩と酢と絡み合って口の中でじゅわぁと広がる。
「白子はとろとろで美味いのう」
「おこわもモチモチホクホクしてて美味いぞ」
柚子胡椒をぴりりと効かせた白子のほのかな甘み、カレーの風味漂うおこわの旨味に二人の言葉を紡ぐ舌は蕩けそうになり、箸の勢いは衰えることを知らない。
醤油と砂糖と鷹の爪で炒められた搾菜とメンマを白飯と交互に黙々と食べ進め、ビールを飲み干していく。
「米が、米がすいすい進むぞぉ!」
「ビールもう一本開けるわ」
「わしのも頼む」
「あいよ」
立ち上がり、冷蔵庫からエビスを取り出してゲゲ郎の頬に当てる。動じた様子も無く「ありがとうな」と笑うゲゲ郎に水木はムッと眉を軽く寄せて、仕返しに軽く頬にキスをする。
「びっくりしたか?」
「吃驚したとも」
そう言って頭に手を伸ばして寄せて唇を重ね合わせるゲゲ郎から自分が食べた物と同じ匂いが、ビールの麦とホップの香りがした。
「世界の終わりが来る次の日よりもな」