また来年の夏も来ておくれ 入道雲が蒼穹の空に映える真夏の頃。緑映ゆる山々に囲まれた屋敷に水木は訪れていた。
「さて。今年も来たな。マヨイガに」
漆塗りの門を潜った先には白髪の男ことゲゲ郎が迎えてくれた。
「久しぶりじゃのう。水木。暑かったじゃろ」
「当分外には出たくねえ……」
ゲゲ郎からのご好意に甘えて麦茶を飲み干す。子守りの婆さんや母を想起させる懐かしい味に暑さに辟易としていた水木の頬が綻ぶ。
「ならば、わしらと同類になれば良い」
「だが、断る」
「間髪入れずの拒否とは!わしは悲しいぞ!」
およよ……と袖を涙で濡らすゲゲ郎を押し除けながら、水木は耳を澄ます。
チリーン。チリンチリン。チリーン。
夏を彩る風鈴の音が屋敷中に、山中に広がって、響き渡っていく。
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