あいおさ(見られた、見られた……見られた……っ!)
夕闇が迫る長い廊下をヒカルはひたすらに走る。どこに向かっているのか自分でもわからない。それでも逃げなければ。
(でも、逃げるって……どこへ……?)
もつれそうになりながらも必死に駆けていた足が力を失くし、はたと止まる。
「ヒカル」
突然背後から降る声に体が大きく跳ねた。追いつけるわけがない、という考えは浮かんだ瞬間に消え失せる。座学も実践もそつなくこなす優秀な彼だ、簡単に追いつく術などいくらでもあるだろう。
「そんなに逃げなくても良いだろ?」
魔物が出たわけでもあるまいし、そう言ってクスクス笑う声に血の引く音が聞こえそうなほど体は冷えていくのに口の中だけが砂漠のように熱く乾いている。震えそうになる唇、それをぎゅっと噛み締め、ヒカルは心臓を落ち着かせるべく、ゆっくりと振り返った。
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