. 画面の中で大きな手が少し乱れた髪を撫でる。沸き上がる悲鳴のような歓声に二人は驚き、顔を見合わせて笑った。強いスポットライトに照らされ、まるで世界に二人だけのようで。
「なんつう顔してんだよ」
飲んでいたグラスをテーブルに置く。響いたのは思っていたよりも荒い音で、そこから自分の動揺や余裕のなさが伝わってしまう気がして少しだけ後悔した。
「なに」
「……めそめそ泣き始めそうな顔だな」
「はぁ?」
なにやらブツブツと反論しているようだが弱すぎる声量はテーブルひとつ挟んだだけの距離さえ越えられない。なんでこいつと二人で観ちまったんだとか、阿修早く帰ってこいよとか、煮え立つ気持ちも耳馴染みの良い歌声にしおしおと萎えていく。
静かになった方へ密かに視線を移すと形容しがたい顔で画面を見つめる姿が見えた。ぷつりとほつれていく隙間、言いたくもなかった言葉たちがほろほろと零れてしまう。
「まぁ……わかんなくもねぇよ。どうしたって変えられねぇし、変えたいとも思わない。むしろ変わらねぇでいてほしいとさえ思う」
「似合わないこと言うなよ、笑えるんだけど」
引き攣るくらいなら笑わなければいいのに。なぁ、お前もそうなんだろ。押し殺すように握られた拳からはぎちぎちと音が漏れそうだ。変えられない変わらない変えたくない、そう思っているのに喉の奥がぎゅっと閉まって苦しくて、凪の海で静かに溺れていくみたいだ。
「出会った順番が違ったって、結局俺は俺でしかねぇから、あいつとの関係は1ミリだって変わらなかっただろうな」
消えそうな溜息と、項垂れて掻き回されてぐしゃぐしゃになっていくご自慢の前髪。いつもそれくらい気にせず過ごしてくれたら少しは揉め事も減るんだけどな。
「……かわいそうじゃない? 俺たち。お姫様には末永く愛し合う王子様がいて、俺たちは恋のライバルにもなれないまま諦める理由を延々探してる」
「ナルシストな上にロマンチストかよ、救えねぇな。つうか……そう言われるとマジで虚しくなるからやめろ」
途切れた会話、チカチカと眩しい光が部屋を照らし、フィナーレへ向けた賑やかな曲たちが画面の向こうをより熱くしていく。
「お前は……あいつが手を離す"いつか"を考えたりしねぇの」
それがどんな理由であれ、きっとあいつは泣くんだろう。そんなこと望んでいない、望んでいないはずなのに。
「永遠の愛なんて信じてないよ。信じてないけど、ああやって笑ってる顔見てると実はあるかもしれないって思うし、あの2人の間にはあってほしいとも思う。これはもう願いだよね、憧れであり願いであり、刺さったまま抜けない棘だよ」
舞い上がるカラフルなテープ、手を繋いだ5人は勢いよく花道を駆けていく。
「その棘が甘すぎて致命傷にもならねぇから困る」
「そうだね」
溜息ふたつを隠すようにエンドロールが流れ始める。