たつひか 人の波に逆らうように歩きながら買ってもらったチョコバナナを頬張る。好物のはずなのに、先ほどの触れただけのキスや意地悪な一言のせいで味なんてよくわからなくなっていた。
「あれ?花火見てくるんじゃなかったんですか?」
玄関のドアを開ければ夕飯の支度を終えたらしい帝人が首をかしげていた。
「あ、そのっ……えっと……」
「諸事情」
「ふーん………そうですか」
何やらニヤニヤと笑う帝人の視線は心なしかオレの首元に向いている気がした。
「じゃあ僕達が花火を見に行ってくるのでその間留守番しててください」
リーダー、モモタス、と二人を呼びながらリビングに戻っていくにこやかな後ろ姿に、今から自分たちが何をしようとしているのか完全にバレているなと恥ずかしさで消えたくなる。
出掛けていく三人を見送り、着替えようと自室のドアに手をかけたがグイと腕を掴まれそのままタツの部屋へと引き摺り込まれた。追い詰められるようにベッドへ押し倒され、明るい照明を遮るようにタツが顔を寄せてくる。
「あ、ほら着替えてシャワー浴びてくるから、ね?」
額、瞼、頬と移動していく唇が離れると少し不機嫌そうに「何でだよ」と返される。
「だって汗かいたりとか浴衣皺になったりとか…その…」
「これ以上待たされてたまるかよ。それに、言うこと聞くって言ったろ?」
「ふっ……ん……」
先ほど付けられた跡を確認するように舐め上げられて口を塞ぐ手に力が篭る。
「声」
「え?」
「出せって」
力で勝てるわけもなくあっさりと掴まれた両腕は頭上で固定されてしまう。
「恥ずかしいから……電気も……っ、消してよ……」
「却下だな」
ちゅ、と音を立てたキスに思わず身体が跳ねる。何度もうなじをなぞったり舐めたりしているタツに、あぁそこがお気に召したのかとやっとこの事態の原因を理解したのだった。うなじには満足したらしく、今度は鎖骨、喉と下がり、雑に開かれた襟元から次の目的へと舌先が移っていく。
タツによって立派な性感帯へと変えられてしまったそこを舐めては甘噛みし、片方もぐりぐりと指で押し潰されば気持ち良さに腰が揺れる。
「あっ……噛むなぁ……」
「気持ちいいんだろ?」
「っ!だめ、だめだからっ」
本当はだめなんかじゃない、それは自分でよくわかっている。だけど快感に頭が白く濁り始めるこの感覚にいまだに慣れることが出来ずいつも少しの恐怖を伴っていた。
何かに縋りたいと空を掻くオレの指に気付いたのか、手首を拘束していた手がスッと離れて乱れた髪をくしゃりと混ぜる。
「暉」
甘い声に呼ばれて伏せていた視線を恐る恐る上げる。