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    宵 yoi

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    宵 yoi

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    眠っていたデータを片っ端から載せていくシリーズ/2016.9

    たつひか1:出せなかった手紙
     書いて捨てる紙屑は俺の想いを表すようにゴミ箱から溢れていく。こんな感情きっと迷惑だ。瞬きの合間に涙がほろりと落ちた、その時。「暉、話があるんだ」遠慮がちに開いたドア。あぁ、そんな目をされたら期待してしまう。「俺も」また一つ紙をくしゃりと丸めた。どうやら手紙はもう出せそうにない。

    2:嘘つき、とそのくちびるが言った
     ちょっとした口喧嘩。俺を置いて先を歩く背中に心臓がギリギリと痛んだ。ふいにぴたりと止まって振り返る。「まだ怒ってんのかよ」「怒ってる」本当は怒ってない。拗ねただけ。近づいてきたタツの口元は楽しそうに弧を描いていて「暉は嘘つきだな」なんて笑いながら俺の目元を無骨な指が雑に拭った。

    3:はじけとんだ理性
     必死に保っていた何かがパチンと弾ける。熱いのは触れている肌か俺の手か。そんな事どうでもいいくらい指先の感触や体温が生々しい。もうこのままめちゃくちゃに抱いて明日盛大に怒られてもいいと思った。お前のせいであって俺は何も悪くない。そうやって押し付け合う朝も俺は案外嫌いじゃないんだ。

    4:きっと大丈夫だよ
     期待に満ちた声が今か今かと熱を上げる。幕裏にも満ちるそれに両極の感情が渦を巻いて低く垂れ込む。左に立つ見慣れた影が「タツがいれば大丈夫」と小さく呟いた。「なんだよそれ」「んー…おまじないかな」一瞬だけ握られた手が照れくさくてお返しとばかりに背中を叩けば大きな歓声と共に客電が落ちた。

    5:地下鉄のホームで君を見た
     人も疎らな平日正午。見慣れた髪が滑り込んできた地下鉄の風に煽られ揺れていた。そういや出掛けるって言ってたっけ。その見慣れぬ表情でどこかへ行き誰かと会うの?湧き上がる嫉妬と不安が足を止め、乗るはずだった電車は定刻通り出て行った。がらんとしたプラットホーム。俺だけが取り残されている。

    6:もっと愛して、奥まで愛して
     好きだから余裕がないなんて可愛い事を言わないで。噛み付くようなキスとぎちりと押さえ込む腕。限界まで打ち込まれる熱に奥まで濡らされ満たされる幸せを知ってしまった。ぐちゃぐちゃになって無意味な声を吐き出す俺にタツは愛してると囁いて笑う。それがどれほど幸せか、伝えたくて力一杯抱き締めた。

    7:あまい蜜のような
     そんなガラじゃねぇくせに珍しく「パンケーキ食べたい!」なんて言われて連れ出されたオフ。てっきりよく聞く有名店かと思いきや着いたのはこいつのイメージにない素朴で落ち着いたカフェ。人もまばらな午後2時。運ばれてきたのは目の前の甘ったるい笑顔のようなはちみつたっぷりのパンケーキだった。

    8:すきにして、いいよ。
     「タツ」俺の下でぐずぐずになった暉は時々不安げで申し訳なさそうな顔をする。何に対してか俺はまだ知る事ができない。少しでも和らげたくて何度もキスを落とせば唇がまだ離れぬうちに「すきにしていいよ」と掠れた
    声が呟く。俺はお前の葛藤を飲み込んでやれるのか、自問自答と共に首筋へと歯を立てた。

    9:思わず触れたくしまいそうになった
     あんまり無理するなよと不器用な心配が嬉しかった。甘えられない俺は大丈夫だよといつも通りの俺を演じる。なのにそんな優しい手で子供を撫でるみたいにしないでほしい。喉元まで出かかった言葉と視界を滲ませる涙に負けてしまわぬよう、ギュッと手を握り締めて触れてはいけないと何度も繰り返した。

    10:いっそ拘束して
     誰とでも無意識に距離を詰めてしまう俺を見て、夏の夕闇みたいに綺麗な目を不機嫌そうにくすませていることに気付いたのはここ最近。いっそ拘束して誰にも触れられないようにしてくれたら俺は喜んでその腕の中にいるのに。言葉も行動も両方くれなきゃ不安になる欲張りな俺を、どうか嫌いにならないで…

    11:しらじらと明けていく夜
     目が覚めたのは朝の気配が迫る午前5時。ベッドが狭いとかくっつくと暑いとか文句を言いながらも腕の中に納まる恋人は朝が弱いのもあって起きる様子はない。カーテンの隙間から薄く差し込んできた光が照らす若葉色をそっと指先で梳けば窓の外にも同じ色があった。もうすぐ、俺の好きな5月がやってくる。

    12:恥ずかしい、でも、好き
     事が終わってからのタツはとにかく優しい。隙間もないほどぴったり抱いて「好き」とか「離したくない」とか普段聞けない甘い言葉とキス。恥ずかしさと嬉しさで溺れそうな俺を何度も髪を梳く指が更に溶かしていく。どっちのタツが本当かわからなくなると呟けば「どっちも俺だろ」とやわく頬をつねられた。
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