好きから始める日曜日 玲太くんが久しぶりにわたしの部屋に来る……!
高校の卒業式の日に玲太くんからプロポーズを受けて、二人だけの結婚式を挙げてから、玲太くんの家で一緒に過ごすことが増えた。だが、いつも玲太くんの家にお邪魔してばかりは申し訳ないと思い、たまにはわたしの家に来ないかと誘ってみた。
「おまえの家?」
「うん。いつも玲太くんの家ばかりじゃ申し訳ないし」
「別に俺は構わないけど」
「そりゃあ、玲太くんのおうちの方が広いし、一人暮らしだけど、たまにはうちにも来て欲しいな。今度の日曜日、お父さんもお母さんも出かけてるから……ね?」
「……じゃ、お言葉に甘えてお邪魔しまーす」
ということで、今度の日曜日に玲太くんがわたしの家に来てくれることになった。高校生の頃は玲太くんが家に来たのはイギリスから帰国してすぐの入学式の前日と、わたしが風邪を引いた時にお見舞いに来てくれた時くらいだったので、これからはもっとわたしの家にも来てくれるといいな、なんて。
そして、日曜日。部屋の掃除を念入りにして、スマホでレシピを調べてケーキも焼いた。ケーキも上手に焼けたので、玲太くんが家に来るのを楽しみに胸を弾ませた。
(玲太くんがうちに来たら、一緒にケーキ食べながらおしゃべりして、あとはどうしよう……)
部屋デートについて楽しみな反面、今更ながら部屋デートとはどういうことをすればいいのかと悩んだ。玲太くんの家にいる時はいつも楽しくてあっという間に時間が過ぎるけれど……。
スマホで部屋デートについて調べてみると「部屋デートで彼氏をHに誘うテクニック」という見出しが目に飛び込んで来た。
(違う! 違う! こういうのは、わたしたちまだ……)
恥ずかしくて画面を閉じようとしたが、ハッとした。
わたしたちはもうそういう関係だった。卒業式の日を境にわたしたちはいわゆる恋人同士の関係になったのだ。ハグや手を繋ぐ等スキンシップも増えたし、キスも高校生の頃はおでこだけだったが、今では唇にもされるようになった。そのうちえっちなことも……。
(わたしたちもそういうことするんだよね、もう……)
玲太くんの恋人、お嫁さんになるのだから、もっとそれらしいことしないと――。
ピンポーン。
その時、玄関のチャイムが鳴った。玲太くんが家に着いたらしく、急いで玄関に向かった。玄関のドアを開けると、にこやかな表情で玲太くんが立っていた。
「いらっしゃい、玲太くん」
「お邪魔しまーす。あっ、おまえ……」
玲太くんはわたしを見て何故かクスっと笑った。
「えっ? どうしたの?」
「昔から変わらないなと思って。小学生の頃もおまえの家に遊びに行った時、こんなふうに飛び出して来てさ」
「えぇっ、そうだったの?」
小学生の頃と同じ行動をしていたとは。小学生の頃も玲太くんがうちに遊びに来ると、こんなふうに真っ先に玄関まで走っていたらしい。本当にわたし、昔から玲太くんが大好きだったんだなぁと思わされる。
「上がって。ケーキ焼いたの」
玲太くんの手を取って一緒にわたしの部屋へ行った。部屋でケーキの用意をすると、玲太くんもイギリスにいるお母さんから送って貰った紅茶を持って来てくれたので、ケーキと一緒に頂いた。
「美味いな、このケーキ。俺が持って来た紅茶にもよく合うし」
「ほんと? 良かった」
「ああ、俺のために頑張って作ってくれたんだろ? ありがとうな」
玲太くんはケーキを気に入ってくれて、わたしの頭に手を置いた。恋人になってからこういうスキンシップが本当に増えて、玲太くんの温かい手の感触にドキドキしながらケーキを頑張って作って良かったなと思った。
「そうだ、ケーキのレシピがあるの」
「へぇ、どれ?」
「これなんだけど……」
スマホからケーキのレシピの画面を表示させるが、スマホの画面に表示されたのはケーキのレシピではなく、先程まで見ていた「部屋デートで彼氏をHに誘うテクニック」の方だった。
「あっ……」
「きゃああっ! 違うの! これは……!」
よりにもよって玲太くんに見られるなんて……恥ずかし過ぎる。
「もしかして、おまえ、今日はそういうつもりで……」
「えっ! えっと……」
どうしよう……何て答えればいいのか分からない。正直に答えるのは恥ずかしいし、でも、違うと言って、玲太くんにそういうことを望んでいないように思われて、がっかりさせてしまうのも嫌だ。だって、わたしはもう玲太くんの――。
「玲太くん……?」
気がつくと、玲太くんの腕の中にいた。玲太くんはわたしを優しく抱きしめてくれている。
「おまえ、無理しようとしてないか?」
切れ長の目で玲太くんはわたしを見つめる。まるでわたしの本心を見透かされているようだが怖くはなく、むしろ穏やかな目でわたしの気持ちを受け入れてくれるようだった。
「だって、わたし、玲太くんとそういうことまだできてないから……玲太くんはもう、ご近所の仲のいい男の子の友達ってだけじゃないのに……」
「今は?」
玲太くんはわたしが今自分をどう思っているのか確かめるように聞いてきた。今、わたしにとって玲太くんは――。
「わたしの好きな人……」
「それだけか?」
頬を赤く染めながらそう答えると、玲太くんはさらに重ねて聞く。
「……わたしのお婿さん」
さらに頬を赤くして上目で答えた。きっと玲太くんが欲しい答え。
「それでじゅーぶん」
玲太くんは満足そうに笑い、わたしのおでこにキスをした。
「おまえがこうしてちゃんと俺を好きだって想っていてくれているだけで俺は嬉しい。そりゃ、いつかはそういうこともしたいって思ってるけど、おまえが無理にしなきゃって焦る必要なんかない。俺たち、ずっと一緒だろ? だから、ゆっくりでいい」
玲太くんの恋人になったのだから、もっとそれらしくしなければいけないと思っていたけれど、これからずっと一緒にいるのだから、無理して焦らなくていいと玲太くんは言う。それよりも今、お互いに好きな気持ちを重ねられていることを大切にしてくれている。
「ありがとう、玲太くん……大好き」
わたしも玲太くんにぎゅっと抱き着いた。こんなにも一人の人から大切に愛されて、わたしはなんて幸せなんだろう。
「でも、わたし、玲太くんのお嫁さんになるんだから、もっと頑張りたい。……だから、わたしからキス、してもいいかな?」
折角玲太くんと部屋に二人きりだし、少しでも進展できたらと思った。やっぱりわたしも玲太くんともっと恋人らしいことがしたい。
「おまえがそう思ってくれるなら……ほら」
玲太くんはキスを受け入れるように目を閉じた。まだ心の準備ができていなかったので、ドキっとしてしまう。
「えっ! えぇと……今?」
「おまえが言ったんだろ? ほら、おでこでもほっぺでも唇でもどこでもどうぞ」
「そうだけど……うう、恥ずかしい……」
自分から言ったとはいえ、玲太くんにキスされるのだってまだドキドキするのに、わたしからするのはやっぱり恥ずかしい。でも、玲太くんのお嫁さんになるんだから頑張らなきゃと思いつつも、玲太くんに顔を近づけてから一向に進まず、十分程経過してしまった。
(こりゃ、大分先が思いやられるな……)
と、待ちくたびれた玲太くんに「時間切れでーす」とキスをされるまであと五秒。