新妻、始めました 高校の卒業式の日、玲太くんからプロポーズを受けて、二人だけの結婚式を挙げた。ウエディングベルみたいな鐘の音に祝福されながら永遠の愛を誓ったその日は、一生忘れられない大切な日になった。この先、いつどんなに盛大な式を挙げても真の結婚記念日は今日だと玲太くんと二人で決めて、わたしたちは幸せでいっぱいだった。
そんな二人だけの結婚式の翌日、わたしは早速玲太くんの家を訪れている。ここ二週間は玲太くんがイギリスにいるご両親に卒業後もこっちに残ると話すために一時帰国していたこともあり、玲太くんの恋人、お嫁さんになって、とにかく二人で一緒にいたかった。そう話すと、玲太くんも同じ気持ちだと嬉しそうに喜んで、早速今日うちに来いよと誘ってくれたのだ。
(何かドキドキしちゃう……)
玲太くんの家へ来るのは初めてではない。近所なので、小学生の頃も遊びに行ったし、高校生になってからも何度か誘われた。だが、きちんと恋人になってからは今日が初めてだ。昨日の今日だし、早速恋人らしいこととかしちゃうのかな? そう思うと、ますます胸がドキドキして、インターホンを押す指が緊張で震えてしまう。家の前で一人悶々としていると、
「やっぱり来てた。そろそろ来るんじゃないかって思ってた」
「わあっ! 玲太くん!」
玄関ドアが開いて玲太くんが出てきた。見慣れた水色と白のパイル生地のボーダーブルゾンを着ている。
「わあって、おまえ驚き過ぎ」
「だ、だって、急に出てきたから……」
驚くわたしにクスクス笑う玲太くんはいつもと変わらない様子だ。でも、心なしか今までに比べてどこか甘くて柔らかい雰囲気に見える。そう見えるのは結婚したからなのかな? 新婚という言葉が胸に浮かび、気恥ずかしくも嬉しさを覚える。本当にわたし、玲太くんと結婚したんだ……少しずつ実感が湧いてくる。
「あっ、それ……」
「うん、昨日玲太くんがくれた髪飾りだよ」
昨日、玲太くんからプロポーズを受けた際にもらった髪飾りを身に着けていることに玲太くんもすぐに気づいた。髪飾りは玲太くんがイギリスにいた頃に見つけて買ったものらしく、いつか絶対わたしに渡そうと決めていたのだそうだ。離れていた時も玲太くんがずっとわたしを想っていてくれたそれは、わたしにとっても大切な宝物になり、これからずっと身に着けようと決めたのだ。
「本当に綺麗だ」
と、玲太くんは愛おしそうに目を細めて、髪飾りの辺りを撫でると、おでこにチュッとキスを落とした。すると、みるみるうちに頬が赤く染まる。
「りょ、玲太くん!? 今、おでこに……」
「いいだろ? もう夫婦なんだから、そういうの気にしなくても」
玲太くん自身もちょっぴり照れくさそうに微笑んだ。愛情と幸せに満ちたその笑顔に、わたしも玲太くんが大好き、愛していると彼への想いが溢れてくる。
「不束ですが、よろしくお願いします……わたしのお婿さん」
「こちらこそ。俺のお嫁さん」
一生この人に添い遂げる――差し出された玲太くんの手に喜んで自分の手を重ね、しっかりと繋いだ。