この気持ちって「三月ってもう、春だよねぇ」
「ねー」
「なんでこんな寒いの」
「真冬じゃないよ」
「でも寒い」
「夜だからじゃない?」
「うーん。あったかいの食べたい」
夜の22時。任務が終わった俺たちは伊地知さんを待っていた。こんな夜中まで働かなきゃいけない俺たちと伊地知さん。呪術師って大変だ。
任務前には降っていなかった雨が降っていたから、二人廃ビルの軒下に収まっている。だから尚更寒いのかもしれない。ていうか、先生。引率だから動いてないからじゃない?俺動いてたから暑いんだけどなぁ。
「あったかいの食べたい」
「なんか作ろうか?俺」
「任務終わりで疲れてるでしょ。というかお腹空かないの?悠仁」
「腹は減ってる」
「んじゃー決まり!ラーメン食べにいこう!」
「わーい!!どこのラーメン屋いくん?」
「文明の利器に頼ろうじゃないか」
「俺、あそこのラーメン好きなんだけどやってるかなぁ」
先生のでかい手に収まるとスマートフォンすら小さく見える。この手がいろんなものを守ってるんだなぁと思うと感慨深い。よく、先生がわしゃわしゃと頭を撫でてくれるのが好きだなぁ。
なんて俺が物思いにふけている間に、サクサクとラーメン屋さんで検索をかけていた。
「何系食べたい?」
「んー、味噌もいいし、豚骨もいいし…まぜそばも。う〜決めれん!」
「王道の醤油もいいよねぇ。ガッツリ二郎系…」
「あーイイネ!美味そぉ…」
「こことかは?」
先生はそういいながらスマートフォンを見せてきた。それに頭を寄せて覗き込む。あれやこれやと見ているといいタイミングでぐごご、とお腹の音が鳴る。
それを聞いた先生はくつくつと笑った。仕方なくね?健康な男子高校生なんだし!美味しいもの見たらお腹も空くよね、うん。
「素直なお腹の音だねー」
「う〜お腹と背中がくっつきそう。伊地知さんまだかな?」
「そろそろ来るんじゃない?あーつけ麺でもいいよね」
「いいね!ラーメンっていっぱいあるから悩むよな」
「ね」
「あ、ここ俺の好きなとこ。営業中?」
「ここにしようか。僕行ったことないとこだし。悠仁のおすすめでしょ?行くしかないじゃん」
「やったー!豚骨おすすめです!」
話している間に三十分はたっていた。そうしている間に伊地知さんが迎えにきてくれた。事故渋滞にハマっちゃったんだって。
「遅くなってすみませんでした」
「大丈夫!遅くまで伊地知さんもお疲れ様!」
「伊地知〜この店の辺で降ろしてくれればいいよ。帰りはなんとかするし」
そうして静かに車は走り出した。伊地知さん運転うまいよなぁ。
「着きました。お疲れ様でした」
「はいはーい。お疲れサマンサー」
「伊地知さん、お疲れ様!また明日ね!」
送ってくれた伊地知さんを見送る。
深夜に近くなってるから客の数はそう多くない。これならすんなり入れそうだ。
それから他愛ない話をしている間に店に入ることができた。おすすめは豚骨っていうのを覚えていたのか、「僕これにしよー」と早々に決めている。俺も同じものをと思ったら先回りして先生に買われていた。
「ふふ、僕の奢りね」
「マジっすか!あざっす!」
カウンターに二人並んで座った。先生、背が高いからだいぶ足持て余してるな…。
「お待たせしましたー」と店員さんがラーメンを運んできてくれた。
白いスープに細いストレート麺。具材はチャーシューとネギ、あと忘れちゃいけないのが紅しょうがと高菜。これが入ってるのが好きなんだよね。
「美味しい〜。これ博多ラーメンだね」
「ん?」
「九州でも豚骨って色々あるんだって」
「そうなん?行ってみてー」
「ふふ、今度行っちゃう?」
「イイネ!」
それから俺は替え玉を三回頼んだ。先生は二回頼んでた。
「美味しかった〜!ゴチになりやす!」
「悠仁のおすすめしたいのわかったー。美味しかったねぇ」
「でしょ?スープ好きなんだよなぁ。コクがあって、でもちょい豚骨臭さがクセになるというか」
高専はそんなに遠くないからゆったり散歩がてら歩いて帰る。俺は明日オフだからいいけど先生は任務かな。って思っていたら「任務ないよ。僕もフリー」って先生が言うから「エスパーかよ」って笑っちゃった。
先生とご飯を食べるのは好きだ。あったかい気持ちになる。もちろん伏黒や釘崎と食べるのも楽しい。
「人とご飯食べるのっていいね」
「ん、そうだね〜」
「先生とラーメン食べれてよかった。また行きたい!」
「いいよ。旅行も行こうね」
「ん?あれマジだったん?」
「47都道府県のラーメン制覇とか楽しそうじゃない?」
「ご当地ラーメンじゃん!楽しそー!」
いつか、本当にいけたら楽しそうだなって。俺はどこまで生きれるかわからんけど、悔いのない人生でいたいなぁ。
そうこうしているうちに高専へと着いていた。楽しい時間ってあっという間だよね。
「先生、今日はありがとー!おやすみなさい」
「悠仁」
「ん?なに」
「誕生日おめでとう」
「え…」
「気づいてない?0時過ぎたよ」
「わ、本当だ…へへ、ありがとう先生!」
わしゃわしゃと頭を撫でられた。忘れていたわけじゃないけど、誕生日なんだ!なんて自分から言うことでもないし「明日、絶対開けとけよ!」なんて釘崎がいうからなんかしてくれるんかなぁってくらいは思ってたんだけど。
「嬉しいな。ご飯食べれたし。俺、先生と食べるご飯一番好きだよ!」
「うん。僕も好き」
「そうなん?やったね!」
「悠仁」
「んえ、なに」
ふにゅと柔らかい感触がおでこにあたった。先生の唇だ。
「君が産まれきてくれて嬉しいよ。悠仁」
「な、え、なんっ!先生なにしてんの!?」
「おやすみ。また明日ね」
もう一回、先生はおでこにキスを落として去っていった。今の俺は顔が真っ赤でぷしゅ〜って湯気がでていてもおかしくない。それくらいドキドキしていた。
でも嫌じゃなかった。むしろ嬉しかったなんて。
もしかしてこの気持ちは。