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    SDK333

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    現代学生、楽←怒。
    伸ばしていた髪を切る話。

    #楽怒

    ショートヘアうなじを隠し、肩甲骨ほどまで伸びた黒髪を見て、みんな一様に「暑くないのか」と質問してくる。
    特にこんな夏の日には。
    暑いに決まっている。儂は男だ。誰が好んでこんなに伸ばすと思うんだ。
    長年手入れしながらも伸ばし続けた髪は、やはり、夏が来る度切りたくなる程鬱陶しい。
    風に吹かれると邪魔だし、汗で肌に張り付くし、良いことなんてない。
    それでもこの長さをキープしているのは、好きな奴の好みのタイプが『髪の長い奴』だったからだ。
    振り向いてもらえる可能性はゼロ。それでもこんなものに縋りたくなるほどに、余裕が無かった。願掛けのようなものだ。
    ……なんて女々しい理由だろうと、自分でも嫌気がさすが、今更この気持ちは変えようがない。

    今の関係が心地良かった。
    自分が特別ではないのは分かっている。それでも誰とでも距離が近く、スキンシップが好きな彼奴に触れられ、身体が密着すると顔が火照る。体温が上がる。心臓がバクバクと早鐘を打つ。
    頭を撫でてきて、細長くも男らしく骨張った指が儂の長い髪を遊ぶように梳く度に、胸が詰まって息苦しくなる。
    付き合えなくてもいい。告白なんてするつもりはなかった。
    関係を崩して距離を置かれるくらいなら、今が一番いいと思った。

    登校は勿論、友人の誘いを断ってまで下校も一緒にしたいと言ってきた彼奴が、最近は先に帰ってくれと言う。
    今更部活なんてしないだろうし、流石に友人達と遊んだり話したりして帰りたくなったのだろうか。
    誰とでもすぐ仲良くなれる奴だから、友人は多い。だからそこまで気にならなかった。
    ただ決まって遅く帰ってくる時、彼奴はやけに上機嫌で、だけど理由を聞いてもニヤニヤするだけで教えてはくれなかった。

    『今日も先に帰っててくれ!』
    いつものメッセージ。夏休み前の夕方のことだった。
    今日は買い物を手伝ってほしかったのに。…だから、それを理由にして彼奴を捜すことにした。どうせまだ校内に居るだろう。
    キュッ、という上履きの音を廊下に響かせながらクラスへと向かうが中には誰もいない。近くの空き教室を捜してみる。
    暫くすると話し声が聞こえた。音を立てず、こっそりと扉の窓から覗いてみる。
    生温い風に吹かれ揺らめくカーテンと、夕暮れの日差しが入り込み橙色に染まる教室。
    グラウンドから運動部員の声が大きく聞こえてきた。

    まるで青春漫画のワンシーンのような中で、教室には可楽と……ショートヘアの似合う可愛らしい女子が居た。
    彼奴よりも、…儂よりも。細くて、小さくて、色白で、目が丸く大きくて。小さく微笑む顔が印象的な娘だった。
    ふんわりとしつつサラサラとして見える短い黒髪を撫でる可楽の掌と、楽しそうに話す二人の姿に酷く胸が痛くなって、苦しくて、喉と目頭が熱くて、手が震える。
    楽しげな雰囲気の中、二人の顔が、近づくのが見えて…………、儂は逃げるようにその場を去った。


    買い物なんてどうでもいい。
    視界が滲む。嗚咽が漏れる。耐えきれなかった。
    頭の中がぐちゃぐちゃで、泣いてることしか覚えておらず、どうやって家まで帰ってきたか覚えていない。
    濡れた瞳と腫れてる目元を見て、空喜や哀絶は驚いていたが、儂があまりにも死んだような顔をしていたせいか何があったかは聞いてこなかった。
    気遣ってくれたのか二人が夕飯を作ってくれた。
    可楽と合わせる顔がない。
    儂は先に飯や風呂を済ませて部屋に引き篭った。

    たかが髪を伸ばしたくらいで、好きな奴に好いてもらえるなんて、どうして思ってしまったのだろう。
    彼奴は女が好きなんだ。
    それが、髪の長い者じゃなくても。
    儂が男として生まれた以上、叶う筈がなかったんだ。





    「積怒、髪切ったのか!?」

    週末の昼前。哀絶と儂が居るリビングに来た可楽と空喜が、目を丸くしてこちらを見ている。
    長く伸ばしていた髪は、他の兄弟と同じようにバッサリと短く切った。

    「似合っておったのに。長い間伸ばしていたが、願掛けしていたのではなかったのか?」

    朝食の残りをてきとうに摘みながら儂を見つめる可楽に、そういえば伸ばした理由をそんな風に説明していたと思い出す。
    癖で触ってしまいそうになる後ろ髪は、既に短く、手は空気に触れるだけだ。

    やけに涼しく感じる。こんなに短くしたのは何年ぶりだろう。
    きっと今年の夏は過ごしやすくなるに違いない。
    儂はそんな事を思いながら、微笑んだ。

    「もう、必要がなくなったんじゃ」



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