空閑汐♂デイリー【Memories】10 どちらが叫んだのか、それともどちらともが叫んだのか。吠えるような男の叫び声が空気を震わせ、盾になろうとした身体は跳ね飛ばされていた。肩には衝撃が走る。
「――ッヒロミ!!」
何発かの銃声が響き、隔壁が閉じる金属音やサイレンが反響していた。その中でも、吠えるように叫ぶ男の声だけは、不思議とクリアに空閑の耳まで届く。
「ヒロミ、大丈夫だ。急所は逸れてる、大丈夫だから」
言葉の間に隙さえあれば大丈夫だと、何度も繰り返し口にしている男の声に彼の体重が掛けられていない方の腕を上げる。利き腕は無事だ。切れ長の瞳からポロリと溢れる雫が、綺麗だなんて。多分今彼に伝えたら怒られてしまうだろう。
けれど、とても綺麗だと思ったんだ。
995