テイクファイブは密やかに 珍しく父親と呑んでいたその日、二軒目として連れられて来たのは最早私も常連と言ってしまって問題ないだろう店で。
ピークを過ぎた時間だからだろう、いくつか空きのあるカウンター席に腰を下ろせば私にとっては見知らぬ――けれど、父親にとっては見知った顔だったらしい男が驚いたように声を上げた。
「笹野先輩じゃないですか、お久しぶりです」
上等なスーツに身を包んで、どこか知り合いを彷彿とさせる胡散臭い笑みを浮かべる男は、父から私へと視線を揺らし――驚いたように固まった。
「ユズルじゃないか。久しぶりだな」
一軒目の店でそれなりに呑んで上機嫌であった父はそう言って笑い、私を見て固まっていたその男に「驚いてんなぁ」とカラカラ笑う。
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