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    Reisi

    @reisi041

    成人済
    ラフ絵・ワンクッション置きたい絵の置き場です。

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    Reisi

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    今書いている小説のうち、4シーンを少しだけ公開します!2人が戦ったり、始祖の話をしたり、羽根を貰ったりします。

     鳥の影がひとつ、蒼天に躍り出る。
     澄んだ朝方の空気が、空と山々の境目を鮮明に映し出している。ここ数日続いていた雨も、昨日の陽が沈む頃にはすっかり止んでいた。視界を遮る靄も、翼を濡らしてしまう雨粒もない。飛ぶには実に良い天気だ。
     吹き付ける風が広げた翼に切り裂かれ、びゅうびゅうと音を立てながら流れていく。翼の縁の風切羽が、朝日の中で赤く鮮麗に輝いた。

     晴れ渡った青空がどこまでも広がっている。周囲には他の者はもとより、いつも引き連れている『羽組』の姿もない。こうして空をひとり飛んでいるとき、チューチャオは自分という存在がひどく孤独で、覚束ないものであるように思えることがあった。鋭く鳴り渡る風音、空の青さ、朝露をたたえた風の匂い……周りを取り巻く感覚すら朧げとなり、己が空の一部となったような心地がしてくる。そうしていると、強い衝動が不意に心を支配するのだ。
     より高く、遠くまで飛んでいきたいという衝動。それは何故だか、望郷と言い表すべき感情を胸に生じさせるものだった。チューチャオは、その衝動に導かれるままに翼を広げ――

     ――ふと意識を引き戻す。そう、自分は何の目的もなく、今こうして飛んでいるのではないのだ。見下ろせば、草原の中に際立つ白い毛皮がひとつ。
     東方十二傑が一柱、ともに四部衆に属する『白雪虎』バイフー。今回の戦闘訓練の相手である。





     メギドの力を継承し、転魔した時期もそう変わらないはずだが、目の前の彼女は継承した力をずっと上手に使いこなしているように見えた。背丈ほどもある尻尾をうまく扱いながら、縦横無尽に戦場を駆け回る姿を思い出す。得物の重さをものともしない、敏捷かつ果敢な戦い方には感嘆するばかりだ。

    「以前よりは複雑な飛び方もできるようになったと思っていたが……集中が途切れるとこうだ。私もまだまだだな」
     それを聞いて、バイフーは目を丸くした。
    「アタシからしたら、チューチャオは今の時点で相当にすごいと思うけど……アンタに翼とか鉤爪とかが生えたのは、つい最近のことなのに」
    「それを言うなら、お前の尻尾もそうだろう」
    「尻尾が生えたところで、戦い方自体は継承前に修行してた頃とそれほど変わらないからね。例えば、アタシの手に……こうやって、鋭い爪とか生えたとして」
     バイフーは両手を掲げ、獣の前脚の爪を真似るように指先を丸めて見せた。

    「それを使ってすぐ戦えるようになるか、と言われたら、さすがに自信ないもの」
    「確かに、お前が今の得物以外で戦う姿はなかなか想像できないな」
    「そうでしょ? あの金棒だって、たくさん訓練してやっと扱えるようになったんだからね」
     己の鉤爪に視線を落としたチューチャオが、静かに呟く。
    「私も、戦いを重ねれば……お前のように上手く戦えるようになるだろうか」
    「そんなに落ち込むことないわよ。アンタがそこまで飛べるようになったのも、今まで頑張ってきた結果なんでしょ」
    「……ありがとう。だが、実は……『飛ぶ』と言う部分に関してだけは、私自身の修練によるものとは違うんだ」
     チューチャオは何かを懐かしむように顔を上げ、その翼を広げた。風切羽が朝日の光を透し、燃えるような朱色に輝く。
    「初めて空を飛んだ日のことを、よく覚えている。羽ばたき方も、風を捉えるすべも、翼が生える前は知る由もなかった事だ。だが、私は……それを特段意識することなく行うことができた」
     ……まるで、ずっと昔から飛び方を知っていたかのように。


    ◆ ☾


     会話が途切れてしまった二人の間に、先程と変わらず穏やかな風が吹いていた。気まずさを誤魔化すように襟巻きを整えていたバイフーは、ふいに首元を何かがくすぐるのを感じる。柔らかくふわふわしたものが襟巻きに引っかかっているようだ。そっと指先で探し当て、目の前にかざしてみる。

     それは鳥の羽根であった。
     大きさは、手のひらより少し小さい位だろうか。根元から先端に至るまで、一切の欠けなく朱色に染まっている。炎のようだ、と感じた。空の青さの中にあっても、紛れることなくその存在を際立たせている。このような見事な羽根を持つ生き物がいるのかと、そう思わせるようなものだった。

     何となしに目の前に掲げた羽根を眺めていたバイフーだが、その鮮やかな色にふと既視感を覚える。もしやと思い、傍に広げられた翼に視線を向けた。そして一つの確信を得る。

     今自分が手にしているのは、チューチャオの羽根である、と。

     ……よくよく見ると、彼女の向かって右側の翼。そこに並ぶ羽の一枚が欠けていた。そうでなくとも、このように鮮やかな羽根を持つものなど、他に二つといるようには思えなかった。


    ◆ ☾ 〇


     ソロモン王らの活躍により、三界を揺るがす大きな戦いにはひとまず幕が下ろされた。とはいえ、その中で生じた混乱は世界に、そして人々の暮らしに、今なお深く爪痕を残している。当然、カクリヨも例外では無い。
     取り残された幻獣の討伐、迷い込んだメギドやヴィータへの対応、その他もろもろ。カクリヨの守護者たる東方十二傑は、西へ東へ、宵界へ……相も変わらずあれこれと対応に追われていた。
     そのようなこともあり、軍団の活動からはしばらく離れざるを得なかった。だが、十二傑たちの奮闘により、それらも次第に片付きつつある。彼らの中からも、そろそろソロモン達の様子を見に行ってやるか、というような声がちらほら挙がり始めていた。
     そういうわけで、エルプシャフト文化圏に未だ残る諸々の案件を片付けるため、バイフー達はしばらく軍団の『砦』であるアジトを拠点とすることになった。

     虎家の屋敷、その自室に足を踏み入れる。思えば、ここに来るのも久々のことであった。
     伯父様――先代カガセオが古き門を開いてからは参の砦を居所としていたし、ソロモンに召喚された後は、制圧済の砦やアジトを行ったり来たりしていた。それ以降も何やかんやでカクリヨ各地にある砦を拠点としていた。
     砦といっても、生活拠点としては十分なほどに環境が整えられている。それに、カクリヨの街道を繋ぐように誂えられた砦の立地は、継承メギド同士の情報伝達を行うにあたって何かと都合が良いのだ。また当分の間は、ここに帰ることもないだろう……そう考えながら、縁側に面する障子を開く。勢いで舞い上がった埃が鼻を擽り、バイフーは顔をしかめた。
     ここに来た主な目的はアジトに運び出す荷物の選定であったが、それが済んだら掃除もしなくてはならない……そう決意した。
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