鳥の影がひとつ、蒼天に躍り出る。
澄んだ朝方の空気が、空と山々の境目を鮮明に映し出している。ここ数日続いていた雨も、昨日の陽が沈む頃にはすっかり止んでいた。視界を遮る靄も、翼を濡らしてしまう雨粒もない。飛ぶには実に良い天気だ。
吹き付ける風が広げた翼に切り裂かれ、びゅうびゅうと音を立てながら流れていく。翼の縁の風切羽が、朝日の中で赤く鮮麗に輝いた。
晴れ渡った青空がどこまでも広がっている。周囲には他の者はもとより、いつも引き連れている『羽組』の姿もない。こうして空をひとり飛んでいるとき、チューチャオは自分という存在がひどく孤独で、覚束ないものであるように思えることがあった。鋭く鳴り渡る風音、空の青さ、朝露をたたえた風の匂い……周りを取り巻く感覚すら朧げとなり、己が空の一部となったような心地がしてくる。そうしていると、強い衝動が不意に心を支配するのだ。
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